懐かしき1970年代の映画「ヨーロッパ編」
往年の名画を再見すると、当時の自分のおかれた状況や、周囲の様々な環境をも想起させてくれる。
「映画」とは不思議な魔力をもったアイテムだと思う。
前回の「アメリカ編」に続き、今回は「1970年代」のヨーロッパ映画の名作を振り返り、その余韻に浸りたい。
「ひまわり」(1970年、イタリア・フランス・ソ連)
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
「イタリアの太陽」と慕われたソフィア・ローレンが、世界中に涙の雨を降らせた不朽の名作。
戦争という厚い壁のまえに運命を狂わされた、男と女の悲しい愛を描いた物語が甦る。
ナポリの海岸で出会ったジョヴァンナ(ソフィア・ローレン)とアントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は恋に落ち、結婚した。幸せな日々も束の間、アントニオがソ連戦線を送られたため、2人は別れ別れになってしまう。
ロシアの名花と謳われたリュドミラ・サヴェーリエワの出演が話題となったほか、ヘンリー・マンシーニの哀切なメロディが涙を誘う。
「ジャッカルの日」(1973年、イギリス・フランス)監督:フレッド・ジンネマン
製作国に米国が加わっていたことも事実だが、「ヨーロッパ映画」として挙げたい。
フレデリック・フォーサイスの同名ベストセラー小説を映画化、フランスのド・ゴール大統領暗殺を目論む殺し屋ジャッカル(エドワード・フォックス)の行動を描いた一級サスペンス。
単なる娯楽映画とは一線を画し、ドキュメンタリーのような落ち着きを醸し出しながら、深く静かに展開していく。そして、もの凄い緊迫感で迫るラストは特筆に値する。
実際にド・ゴール大統領の報道記者をしていたというフレデリック・フォーサイスの経験と、イギリスの名優エドワード・フォックスの好演が傑作を生みだしたといえる。
「ルードウィヒ 神々の黄昏」(1972年、イタリア・西ドイツ・フランス)
監督:ルキノ・ヴィスコンティ
19世紀後半のバイエルン(ドイツ南部)国王、ルードウィヒ二世が、退廃と倒錯した愛のうちに破滅していく姿を荘厳なタッチで描き出したヴィスコンティ晩年の代表作。
18歳の若さでバイエルン国王となったルードウィヒ二世(ヘルムート・バーガー)は、オーストリア皇帝の妃となっている従姉のエリザベート(ロミー・シュナイダー)に想いを寄せている。彼は政治や軍事には関心が乏しく、ひたすら芸術の保護に金を使っていた。中でもワーグナー(トレヴァー・ハワード)に心酔し、国家の財政に影響を及ぼすほどの巨費を投じて後援している。
ヴィスコンティ監督のドイツ三部作(69年「地獄に堕ちた勇者ども」、71年「ベニスに死す」、そして本作)の終幕を飾る作品で、再編集された完全版は237分に及ぶ。
ヘルムート・バーガーの鬼気迫る演技、ロミー・シュナイダーの美しさに、思わず息をのむ。
「仁義」(1970年、フランス・イタリア)監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
男の世界を全編に漂わせたフィルム・ノワールの最高傑作。
J・P・メルヴィルの手慣れた演出と、まったくブレない脚本、そしてアンリ・ドカエのカメラの構図も素晴らしい。セリフを極力排除し、映像だけが淡々と流れるシーンに惹き込まれる。
マルセイユ・ブランカール駅。パリに向かう夜行特急列車に、手錠で繋がれたマッティ警視(ブールヴィル)と容疑者ヴォーゲル(ジャン・マリア・ボロンテ)が乗ってきた。マッティが眠りについた隙を見計らい、ヴォーゲルは用意周到に逃走した。一方、マルセイユ近くの刑務所では、出所を翌日に控えた受刑者コレイ(アラン・ドロン)の独房に古顔の看守が訪れる。
ラスト近く...マッティ警視がヴォーゲルに訊く。 ‘何故、黙っていたのだ?’...対するヴォーゲルが言う。 ‘仁義さ’
アラン・ドロンのトレンチコートがサマになっている。
「映画に愛をこめて アメリカの夜」(1973年、フランス・イタリア)
監督:フランソワ・トリュフォー
映画への愛に溢れたフランソワ・トリュフォーの傑作。
あるメロドラマ映画の撮影風景を通し、映画作りに集まった人々の人間関係やトラブル、仕事ぶりなど、様々なエピソードを織り交ぜながら、トリュフォー自身の映画製作に対する愛情、苦悩を浮き彫りにする。
南フランスはニースの映画スタジオで、ロマンス映画の撮影が始まる。ハリウッドからやって来た主演女優のジュリー(ジャクリーン・ビセット)は、病み上がりでいつ倒れるか分からない。男優のアルフォンス(ジャン・ピエール・レオ)は、記録係りのリリアーヌ(ダニ)との恋愛で演技に集中できず、出番はほったらかし。監督のフェラン(フランソワ・トリュフォー)は、トラブル続きの現場に悩まされるが、映画を愛してやまない彼は、撮影終了までひたすら情熱を傾けていく。
映画製作の裏側を描いた点で非常に興味深いが、アメリカ映画ならまったく異なった毒気のある作品となっていただろう。ジャクリーン・ビセットの優雅な美貌が忘れ難い。
「007/ダイヤモンドは永遠に」(1971年・イギリス)
監督:ガイ・ハミルトン
製作国に米国が加わっていたことも事実だが、「ヨーロッパ映画」として挙げたい。
シリーズ第7作。ショーン・コネリーが「007は二度死ぬ」(67年)以来、4年ぶりにジェームズ・ボンド役に復活した。そもそも70年代では、ロジャー・ムーアがボンド役を演じており、本作はショーン・コネリー唯一の70年代におけるジェームズ・ボンド役である。
ボンド・ガールとして、ジル・セント・ジョンや、ナタリー・ウッドの末妹であるラナ・ウッドが起用されている。憎きスペクターのプロフェルド役はチャールズ・グレイ。
そして作品のヒットに貢献したのが、声量豊かなシャーリー・バッシーの歌うテーマ曲。
「007/ゴールドフィンガー」(64年)に続く、圧倒的な歌唱力で存在感を示した。
「旅芸人の記録」(1975年、ギリシャ) 監督:テオ・アンゲロプロス
軍事政権下のギリシャで、全国を巡業して歩く一座が目撃する様々な出来事を通し、政治に翻弄される庶民の姿を描いた大叙事詩。
むかし、テレビの洋画劇場で観た記憶があるが、実に芸術色の強い作品イメージが残っている。
有名俳優はほとんど出ていないが、評価は高い。いわばミニシアター映画の先駆けかもしれない。
驚異的な長回しなど、独創的な手法で世界的にも注目された名作だ。
個人的に、再見したい気持ちが高ぶっている。
以上、7作品を挙げたが、「ベニスに死す」、「暗殺の森」、「小さな恋のメロディ」、「遠すぎた橋」、「ノスフェラトゥ」、「家族の肖像」、「ボルサリーノ」、「暗殺者のメロディ」、「サスペリア」等々、70年代のヨーロッパ映画の傑作は数えきれない。
又の機会に、作品個別に探求してみたい。
次回は、懐かしき1970年代の映画「日本編」です。