懐かしき1970年代の映画「日本編」
往年の名画を再見すると、当時の自分のおかれた状況や、周囲の様々な環境をも想起させてくれる。
「映画」とは不思議な魔力をもったアイテムだと思う。
前々回の「アメリカ編」、前回の「ヨーロッパ編」に続き、今回は「1970年代」の日本映画の名作を振り返り、その余韻に浸りたい。
「砂の器」(1974年・松竹) 監督:野村芳太郎
松本清張原作の社会派ミステリー小説を映画化。
東京・蒲田駅の操車場で起きた殺人事件を、ベテラン刑事(丹波哲郎)と若手刑事(森田健作)が
‘カメダ’ という言葉を手掛かりに捜査を続けていく。
やがて容疑者である高名な音楽家の ‘ハンセン氏病患者’ としての悲惨な過去が明らかになる。
前半は刑事たちの地道な捜査、後半は事件の真相が解明されていく過程がリアルに描かれている。
加藤剛、島田陽子、加藤嘉、緒方拳、山口果林、佐分利信らが共演、芥川也寸志の音楽も効果的だ。
「幸福の黄色いハンカチ」(1977年・松竹) 監督:山田洋次
第1回日本アカデミー賞・作品賞受賞。
刑務所帰りの男(高倉健)が妻(倍賞千恵子)の待つ家に着くまでを、北海道を旅行中の若い男女(武田鉄矢・桃井かおり)との交流を絡めて描く。
‘黄色いハンカチ’の意味合いに対する、ラストシーンの感動は大きな反響を呼んだ。
渥美清、三崎千恵子、太宰久雄らベテラン俳優が共演している。
「サンダカン八番娼館・望郷」(1974年・東宝) 監督:熊井啓
明治・大正時代に、東南アジアに出稼ぎし、娼婦をしていた ‘からゆきさん’ と呼ばれた女たちの人生を描いたノンフィクションの映画化。
元からゆきさん・サキの晩年を演じた田中絹代、サキの若い時代を体当たりで演じた高橋洋子の熱演、九州でサキに出会う女性史研究家を慈愛あふれる演技で演じた栗原小巻、3人の女優の素晴らしい演技が絶賛された。
「人間の証明」(1977年・東映洋画) 監督:佐藤純彌
‘母さん、僕のあの帽子どうしたんでしょうね’ このキャッチフレーズが流行語になった。
黒人青年が東京の高層ホテルで刺殺され、棟居刑事(松田優作)が捜査を進めるなか、意外な過去の事実にたどりつく。
ニューヨーク市警の刑事役でジョージ・ケネディが出演しているほか、岡田茉莉子、ハナ肇、竹下景子、范文雀、岩城滉一、夏八木勲らが共演。更に鶴田浩二、三船敏郎も特別出演している。
ジョー・山中が歌うテーマ曲「人間の証明のテーマ」もヒットした。
「仁義なき戦い」(1973年・東映) 監督:深作欣二
敗戦直後の暴力団の抗争を描いた傑作で、策略と裏切りによる血みどろの戦い、手段を選ばず成り上がっていく男たち、とにかく暴力描写のすさまじさが最大の見どころである。
作品のヒットでシリーズ化され、70年代の公開作品は9本に及んだ。
主役の菅原文太が大スターの仲間入りを果たし、松方弘樹、金子信雄、梅宮辰夫、田中邦衛、渡瀬恒彦らが共演している。
「復讐するは我にあり」(1979年・松竹) 監督:今村昌平
63年に5人を殺害し、70年に死刑になった犯罪者の人生を描いた作品。
若い頃から詐欺を続け、殺人までも犯してしまう男の内面を緒方拳が個性的に熱演、人間の心理の不条理を描いている。
小川真由美、三國連太郎の好演が素晴らしく、清川虹子、倍賞美津子、フランキー堺といった名優の演技も見どころ。同年の各映画賞を総なめにしている。
上述以外にも、「愛のコリーダ」、「青春の殺人者」、「田園に死す」、「あゝ野麦峠」、「事件」、「柳生一族の陰謀」など、話題作は事欠かない。
「男はつらいよ」の ‘寅さんシリーズ’ も、70年代に数多くの作品が公開されている。