4月10日生まれの男たち その2 淀川長治
4月10日生まれの男たち その2 映画を熱く語り、橋渡し役に徹した人
( 以下 敬称略 )
淀川長治 ( 1909 ~ 1998 )
亡くなられて四半世紀を過ぎているので、そのライフワーク「 日曜洋画劇場 」ともども知らない世代が増えているのは否めない。
それよりさらに前の「 ララミー牧場 」( 日本での放送は1960~63 )はロバート・フラーやジョン・スミスらが出た西部劇ドラマは記憶のかなたですが、番組の最後にニコニコしたおじさんが解説役として登場し、最後に「 サヨナラ 」を3回繰り返して終わるのが、とても印象に残っていました。
1966年10月「 土曜洋画劇場 」(67年4月から「 日曜洋画劇場 」)が始まり、
そのおじさんが淀川長治という人と知りました。

「 日曜洋画劇場 」での 淀川長治の解説集のDVD

日曜洋画劇場のエンディングで使われたのはコール・ポーター作曲
「 So in Love 」 バージョンは異なるがそれを含むCDの

ちなみに初回放送の作品は『 裸足の伯爵夫人 』


ずっと後になって「 日曜洋画劇場 」の初期のラインナップを調べて見ると、1930年~60年代のハリウッド映画やフランス映画、イタリア映画などのいろんな作品が毎週毎週放送されていて、おどろいたことがあります。
毎週ゴールデンタイムに洋画を放送するというのが画期的で、「 ララミー牧場 」でテレビは終わりと思っていたご本人を翻意させました。
その後『 月曜ロードショー 』( 実はTBSの「 土曜ロードショー 」のほうが1966年7月からで先行していたが解説者なし、荻昌弘が1970年4月解説するようになって『 日曜洋画劇場 』に人気で対抗するようになった )
ゴールデン洋画劇場(1971年4月から 前田武彦→高島忠夫 )、
水曜ロードショー(1972年4月から 水野晴郎 1985年から現在の金曜ロードショー )などをはじめとして、毎日朝昼晩どこかで放送される洋画番組全盛の時代が来ました。
映画を熱く語る人でした。
時には熱く語るあまり、現在でいうネタばれになることもありました。 たとえば『 汚れた顔の天使 』などは観る前にラストを知っていました。(笑)
それでもイヤにならなかったのは、一つはレンタルビデオもない時代、古い映画を観るのはなかなか大変で、情報に飢え、リバイバルや名画上映会など劇場で観る機会があれば押しかけ足を運ぶしかなかったからです。 名作映画はあこがれの星のようでした。
そして何よりお人柄と語りの名人だったからでしょう。
熱く語る のと 押しつけがましいのとは違います。
同じようにネタばれをしても、関西のベテラン漫談家・ラジオパーソナリティとの評価の違いはそこでしょう。
「 私は嫌いな人に会ったことがない 」がモットーなのは有名で、人の欠点ではなく長所を見よう、映画を紹介するときも基本どこかいいところを見つけてホメるよう心がけていました。
もっとも「 嫌いな人には最初から会わない 」じゃないのか(笑)とイジられるほど、辛辣で毒舌、礼儀には厳しく、本人も「 しばしばカミナリを落としてしまう 」と認めるくらい実は瞬間湯沸かし器のような一面もありました。(笑)
厳格な評論をしたいとずっと思っていましたし、戦後進駐軍系の配給会社に腹を立て辞職した後、「 キネマ旬報 」に入ることも決まっていました。
旧知の恩人にその報告のあいさつに寄った「 映画の友 」に、なりゆきから入ることなってしまい、映画への橋渡しが自分に与えられた役割と思い定めました。
「 いいものを見よう 」「 「 いいものを読もう 」「 一流のものを聴こう 」
映画をより理解し味わうために、映画以外の文学、演劇、美術、音楽などいいものに触れて吸収するよう後進の若者たちに訴えた。
その思いは手塚治虫や司馬遼太郎、国立国会図書館を作った羽仁五郎も同様。
角川文庫の「 発刊に際して 」に今もあるように「 敗戦は軍事力による敗北である以上に、文化や知性の敗北 」と痛感する戦中世代共通のものでしょう。
「 日曜洋画劇場 」以外でも特別番組や講演、著作などで映画の魅力を訴え続けました。
東宝東和が1970年代『 モダン・タイムス 』のリバイバル上映に始まるビバ・チャップリン 」キャンペーンやカイエ・ド・シネマや岩波ホールをはじめとする単館上映の成功にも貢献しました。
ルキノ・ヴィスコンティが亡くなった時も「 日曜洋画劇場 」では『 ベニスに死す 』を緊急追悼放送しました。


後年レンタルビデオの普及で洋画番組の需要は減り、また時代の変化で視聴者の好みも変わり、「 日曜洋画劇場 」もシュワルツェネッガー、スティーブン・セガール、ブルース・ウィリスなどのアクション作品や「 特攻野郎Aチーム 」などの頻度が多くなりました。
解説者、映画文化の伝道者として、おそらく本領が発揮できず忸怩たる思いだったのではないか、と僕は思います。


「 淀川長治自伝 」( 中公文庫 現在は絶版 )の紹介など、さらに淀川長治についてはこの作品のロキュータス名義のレビューに書きます。( 予定 )
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4月10日生まれの男たち
その1 永六輔 はこちら
その3 和田誠 はこちら
その4 さだまさし はこちら