
7作目 HANA-BI 妻へのラブレター。
HANABI 平成11年(1998年)公開

ベネチア映画祭金獅子賞受賞作品。
1951年には黒澤明監督の「羅生門」、稲垣浩監督「無法松の一生」に続く「金獅子賞」を獲得し、戦場のメリークリスマスの「ぬか喜び」から約15年後、足立区のタケちゃんから世界の北野武となった。
ストーリーは極悪 犯(薬師神保栄)を尾行し、追い詰めた時に犯人からの銃撃により、殉職した刑事(芦川誠)の妻(大家由祐子)、障害を持ったことにより家族を失う刑事(大杉漣)へやくざからの闇金を借り、返済のため銀行強盗を犯してまでの償いと余命幾何の無い「妻」とのロードムービー。主役の西(ビートたけし)妻役の(岸本加世子)のたった2つの台詞で涙し、感情をゆさぶられる作品。
公開直後に鑑賞した時の感想は当時の妻 北野(現:松田)幹子氏への遠回しのラブレターと思った。究極の人見知りである監督の愛情表現なのかと。
余談ですが私はラブレターにDVDをつけてしまうデアゴスティーニみたいな荒業師。
映画を撮る気はなかった。談志師匠がきっかけ?
戦場のメリークリスマス公開の頃に放送されたオールナイトニッポンで立川流落語(芸能Bコース) の師匠でもある立川談志がビートたけし(立川錦之助 現:梅春)へ映画を「なんでテメェで撮らねぇんだ」と言い、それに対してビートたけしは「俺が?撮れないですよ」と返した。
その数十後に映画を撮り金獅子賞を取った。
時は巡り金獅子賞を取った後に今度はFM番組の「街でいちばんの男〜ビートニクラジオ」(TOKYO FM)のゲストとして立川談志が登場しビートたけしへ「(俺:談志)なんか似てる所があり、狂気があって~とても可愛い」「(映画)HANABIなんて作品を撮るんだからな~」と評価をしていた。

黒澤明監督も認めた作品
フランスの国営テレビで製作された蓮見氏とのインタビュー対談の中で「HANABI」のやくざとの乱闘シーンは自身の喧嘩や見てきたものをうまくシーンに取り入れたと語っていた。殴り殴られないとわからない痛みのあるシーンは北野映画独自のもの。他の作品では一歩的な暴力でただ残酷な感じを受ける。そしてこの作品は黒澤明が選んだ100本の映画の100本目に選ばれている。
生理的なシーンは嫌い。
今作品では、夫婦が描かれている。妻(岸本加世子)と写真を撮るシーンで、腕を組んでくる妻の手を振り払う。
監督は「女性には滅法弱い。何かを言われたら、すぐにはい!と言ってしまう。女性を殴るようなシーンもあるけど、基本的には性的な事、セックスと食べることが大嫌いでね~見られる事が。生理的な事を(他人)見せたくない。
ゴダールの映画「HANABI」への感想二転三転劇
(北野武/そしてあるいはビートたけし ユリイカより)

フランスのカイエ・デュ・シネマの元編集長のティエリー・ジュスから聞いた話では、作品をみたティエリーがゴダール監督へ「HANABI」は1990年代の「気狂いピエロ」と言って作品を観るように勧め鑑賞後に感想を求めたらゴダールから「素晴らしい」と言った。
しかし北野監督は「(ゴダール)の※奥さんが喜んでいたというのは聞いたけど。3回見たって聞いた。それでその奥さんが「北野監督に手紙を書きたいからFAX番号を教えろ」って誰かに言わされたって。「ゴダールは手紙を書くと金を取るぞ」って言うから、なんで手紙をもらって金払わないといけないんだって(笑)
ゴダールが褒めたことを宣伝に使おうという話になったら、蓮實さん(映画評論家)が「いや~
ゴダールはどんなものでもコメント発言はしないことにしている」ってことで、しょうがないから「ゴダールが素晴らしい!」といった」というコメントをティエリー・ジュスからもらって、さらに
「ゴダールが素晴らしいと言ったティエリー・ジュリから聞いて私は大変うれしかった」と蓮見重彦が書けばいいことになった。それはまるで山一證券の※「飛ばし」行為だっていう。。
※アンヌ・マリーミエヴィル夫人
※飛ばし行為・・含み損が生じた資産を市場価格よりも高値で第三者に転売することによって損失を隠すこと。グーグル調べ。
この映画のタイトルは「沖縄ピエロ」だった。やはりゴダール監督の影響を感じる。
HANABIの観てほしい6つのポイント!
- 主人公:西(ビートたけし)の妻役の岸本加世子のセリフが少ない「表情の演技」は圧巻。
- 会話がなくても夫婦の絆を表現している「ケーキの交換」「写真撮影」シーンが印象的。
- あの夏一番静かな海から造り上げたキタノブルーの完成形。
- 「その男凶暴につき」の殺し屋役の白竜が再登場。さらに凄みとそこはかとない怖さの武闘派やくざを演じる。
- スクラップ屋の親父(渡辺哲)の満面の笑み。
- 北野監督初期の集大成的なキャスティング陣大杉漣、寺島進、芦川誠、津田寛治、北野組のバイプレイヤー西沢仁太、森下能幸、矢島健一、ト字たかお たけし軍団(柳ユーレイ、つまみ枝豆、玉袋筋太郎、無法松、ガンビーノ小林など)がそろい踏み。
北野監督の「振り子の原理」
北野作品の特徴は言語を介さないノンバーバル(非言語のコミュニケーション)にて観ている側のそれぞれの感性に訴えることを念頭に置いていたと思う。オールナイトニッポンで速射砲と言われた人物が映画では「寡黙」になる。まるで振り子の原理のように相反する状態が根底にあるのかな~と改めて今作を観て思った。
思えばテレビ東京の「気分はパラダイス」というトーク番組でゲストとの楽しい雰囲気のやり取りで笑い、番組の挿入歌は「たかを くくろうか」でしんみりしたな~と思う今日この頃。
たかを くくろうかの作曲は故坂本龍一氏。