近藤正臣の出演映画 その3
引き続き近藤正臣である。
71~72年はテレビ出演が増え売れっ子になったこともあってか、映画出演はないようである。個人的には「火曜日の女シリーズ」の「クラスメート~高校生ブルース」が印象に残っている。武原英子主演のサスペンスで、近藤も30歳にして高校生を演じていた。沖雅也、沖田駿一、水谷邦久らも高校生役だ。
そして73年は松竹の「花心中」で映画初主演を務めた。ヒロインは中野良子で、他に津川雅彦、横山リエ、森本レオなど。物語は男女の心中から始まるが、男(近藤)は生き残り、女(横山)は死亡する。女の妹が中野で、姉の死の原因を知るため近藤に会いに来る。自殺の原因となったのが津川演じる作詞家だ。
原作は阿久悠、上村一夫の劇画で、二人は「月光仮面」「隠密剣士」などを手掛けた広告代理店・宣弘社の企画部員で席が隣だったという間柄だ。その上司が「月光仮面」「隠密剣士」の脚本を書いていた伊上勝で、後に「仮面ライダー」など70年代の特撮の多くを手掛ける。藤岡弘の項で書くのを忘れていたが、当初「仮面ライダー」の主演に内定していたのは近藤だったそうな(日程が合わず藤岡弘に変更)。
74年はまず東宝の時代劇「鬼輪番」で主演を務めている。これも小池一夫、やまさき拓未による劇画が原作。大雑把に言うと若い五人の忍者の戦いを描いた話だが、その五人が近藤の他、峰岸徹(当時は隆之介)、水谷豊、高峰圭二、荒牧啓子である。彼等の仲間だが、裏切ったような行動(結局は味方)を取るのが岸田森、敵役の目付には佐藤慶で、他に藤巻潤、上野山功一など。高峰は「ウルトラマンA」で有名だが、近藤とは戦記ドラマ「若いいのち」(65年)で共演してから親交があったという。荒牧は70年代前半に活躍した女優だが、75年を最後に出演記録がないので、その辺りで引退したと思われる。
この74年に近藤が主演を務めたドラマ「斬り抜ける」でも、岸田森、佐藤慶とは共演している。
74年はもう1本あり松竹「狼よ落日を斬れ」である。
池波正太郎の「その男」と「人斬り半次郎」が原作となっており、二時間半超えの大作で中身は風雲編・激情編・怒涛編に分かれているようだ。
主演は高橋英樹で、「その男」の主人公である杉虎之助を演じる。松竹では前73年の「宮本武蔵」に次ぐ主演である。虎之介は架空の人物だが、物語の中心となる他の三人は実在した人物で、緒形拳演じる中村半次郎、西郷輝彦演じる沖田総司、そして近藤正臣演じる伊庭八郎である。
沖田総司は有名だろうが、伊庭は幕臣の一人で、隻腕の剣客として知られる。沖田が病死した翌明治2年、箱館戦争の際に死亡した。中村半次郎こと桐野利秋は薩摩藩士で陸軍の軍人。明治10年の西南戦争で戦死している。
他の出演者だが、松坂慶子、大地喜和子、本阿弥周子、和崎俊哉、田村高廣、佐野浅夫、今井健二、坂上二郎、辰巳鉚太郎などである。
75年は東宝「動脈列島」1本だけだが、中々の大作である。タイトルだけでは中身が想像しにくいのだが、大雑把に言えば、社会派サスペンスと言うことになるのだろうか。
新幹線の騒音のせいで、患者が亡くなったことに怒りを覚えた青年医師・秋山が国鉄(現JR)に脅迫。要求を受け入れなければ、新幹線を転覆させるという。捜査本部長に任命された犯罪科学捜査研究所署長・滝川を中心とした警視庁・県警との闘争が描かれる。
その秋山役が近藤で、滝川役が田宮二郎である。近藤は基本的には単独犯だが、恋人の看護師である関根恵子や元看護師の梶芽衣子の協力もあったりする。警察関係者が小池朝雄、近藤洋介、井川比佐志、渥美国泰、勝部演之、小沢栄太郎などで国鉄関係者が山村聰、平田昭彦、加藤和夫など。
本作公開の二カ月前に東映の「新幹線大爆破」が公開されており、新幹線を破壊する犯人と捜査陣の対決という構図が同じため、どうしても後から公開された本作は二番煎じと感じた人もいたと思われるが、前者は当時流行っていたパニック映画にカテゴリーされ、後者は前述の通り騒音問題を扱った社会派という違いがある。
「動脈列島」の原作は清水一行で、監督は大映出身の増村保造が初めて東宝系の東京映画で指揮を執った。そのためか同じく大映出身の田宮二郎、関根恵子、峰岸徹などが参加。増村の監督作である「ザ・ガードマン」からも神山繫、中条静夫、稲葉義男が姿を見せている。