萩原健一の出演映画 その3
今回も萩原健一である。
主演ドラマはヒット作が続いていたが、映画の方はそれほどヒットしたものはなかった。だが、77年に出演した「八つ墓村」は大ヒット作となった。この当時は横溝正史ブームの最中であり、東宝が石坂浩二を金田一耕助役に配し、人気を呼んでいた中、松竹では渥美清を金田一役に抜擢した。これは横溝自身の希望だそうで、石坂浩二では二枚目過ぎるので、渥美の方が自身の持つイメージに近いそうである。
公開は77年であるが、製作自体は75年からスタートしている。他の出演者は小川真由美、山崎努、市原悦子、中野良子、山本陽子、加藤嘉、花沢徳衛、大滝秀治、夏八木勲など。ちなみに萩原演じる辰弥の少年時代を吉岡秀隆が演じている。
萩原が出演を決めた理由の一つに渥美の存在があった。一度共演して見たかったのだという。萩原に言わせれば、本作は「変な映画」だったという。不自然だと思えるような場面も多く、思わず渥美に「ヘンだと思いませんか」と尋ねると「俺が金田一耕助である時点でヘンなんだよ」と返したという。「俺はみんな寅さんだから」と自虐的なことも言っていたそうな。
78年に最初の妻である小泉一十三と離婚。まもなく、いしだあゆみとの同棲が始まり、80年に結婚することになる。媒酌は山崎努夫妻が務めている。婚姻届けはいしだに渡していたが、じつは彼女はそれを役所に出していなかったのだそうな。つまり籍は入っていなかったということだ。
この80年には黒澤明監督の「影武者」に出演している。主役の武田信玄及び影武者役は当初勝新太郎だった。萩原は信玄の後を継ぐ諏訪(武田)勝頼の役だ。他に山崎努、根津甚八、大滝秀治、桃井かおり、倍賞美津子、室田日出男らに加え、オーディションにより油井昌由樹、隆大介、清水大敬、阿藤海などが選ばれている。黒澤映画の常連である志村喬、藤原釜足も最後の黒澤作品出演となっている。
勝新太郎の降板騒動は有名だが、どちらも自分のペースでやらないとすまないタイプということもあり、黒澤が勝の態度にキレて降板させたのである。代役は黒澤映画の常連である仲代達矢に決まったが、萩原はその経緯は知らないと語っている。まあ単純に仲代なら黒澤に逆らうことはないし、スケジュールも大丈夫だったからなのだろう。さすがの萩原も黒澤に逆らったりはしなかったそうだが、落馬して溺死しそうになるなど危ない目にもあったという。天気は良いのに、役者もエキストラも甲冑を着たまま一週間にわたり待機させられたこともあったという。たまりかねた、田中友幸Pと萩原が黒澤の部屋を訪れると「雲を待っている」という。田中が「一週間も待たされているんですよ。早くしてください」と文句を言うと「そんなことはわかっている。私だってイライラしているんだ」と逆ギレしたという。
賛否両論あった作品だが、当時の歴代興行成績の1位を記録している。
81年、萩原の出演映画は松竹の「魔性の夏~四谷怪談より」の一作である。監督は舞台のイメージが強い蜷川幸雄で、実際に舞台っぽい作品であると評されている。松竹の解説では「四谷怪談」を青春群像ドラマとして映画化した時代劇で、キャラクターや台詞に現代的な視点を取り入れたとある。
主役の民谷伊右衛門が萩原で、その妻・いわが関根恵子というスタート時の「太陽にほえろ」コンビだ。佐藤与茂七役が勝野洋で、やはり「太陽にほえろ」繋がりだ。ラストはマカロニ対テキサスの斬り合いということになる。与茂七の妻が夏目雅子で、他に石橋蓮司、小倉一郎、森下愛子、鈴木瑞穂など。萩原と夏目雅子は日曜劇場「露玉の首飾り」というドラマで共演したことがあった。
82年は東映の「誘拐報道」。これは80年に起きた宝塚市学童誘拐事件を基に作られているが、視点を犯人側から描いている。その主役である誘拐犯役が萩原で、その妻が小柳ルミ子だ。これは監督の伊藤俊也の強い意向によるものだが、所属する渡辺プロが小柳の起用に難色を示していた。それまで、小柳の演技仕事は少なく、この年も歌手活動一本で行くことが決っていたという。小柳本人にその話は伝わっていなかったが、萩原が直接彼女に伝えたところ出演を熱望したという。東映は以前から他作品でも小柳に出演オファーをしていたらしい。
誘拐される子供の両親役は岡本富士太と秋吉久美子。他に中尾彬、池波志乃が夫婦で出演、伊東四朗、三波伸介のてんぷくトリオコンビ、加えて宅麻伸、藤谷美和子、平幹二朗、菅原文太、丹波哲郎など。三波伸介は七年ぶりの映画出演だったが、本作公開の約三カ月後に急死している。本作で萩原は日本アカデミー賞の優秀主演男優賞、秋吉久美子は優秀助演女優賞、そして小柳ルミ子は最優秀助演女優賞を受賞したのである。
83年は「もどり川」で主演。神代辰巳監督とは三度目の映画である。萩原の役は二度の心中未遂の果てに自殺する対象時代の歌人で、太宰治がモデルとなっている。ラブシーンの続く映画で共演は原田美枝子、藤真利子、樋口可南子、蜷川有紀など。「こういう役には麻薬がいる」と撮影中はずっと大麻とコカインを吸っていたという。いずれこの現場から通報されて逮捕されるかもしれないという予感はあったという。ちなみに、麻薬に関してはテンプターズ時代からやっていたことを著書「ショーケン」では明らかにしている。
ちなみに「もどり川」の製作は三協映画で、配給は東宝東和である。三協映画とは梶原一騎、東京ムービー社長・藤岡豊、石原プロ・川野泰彦の三人で設立された映画製作プロダクションである。
「もどり川」公開の2カ月前である83年4月、萩原は大麻不法所持により逮捕され、執行猶予はついたが、約1年の活動停止よ余儀なくされた。また、翌5月には梶原一騎も傷害事件で逮捕されたのだが、警察は梶原が萩原に大麻を渡したのではと疑っていたところ、傷害事件が明らかになったという経緯らしい。
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投稿を表示いつも、ありがとうございます
楽しみにしています
八つ墓村のショーケンは、空港の地上業務員の役かなんかで、妙にしっくり合ってましたね
大滝秀治の法律事務所で加藤嘉が大変なことになったとき、「じっちゃん」と叫んだのもリアルで、
よく覚えています 「お前の生まれたところはね 龍のアギト というところよ」と中野良子に言われる(子役ですが)ところも印象深い 渥美の金田一ですが、ちっともヘンだとは思いませんでした 村人を前に「犯人は東屋の・・・」と切り出すセリフ回しが絶妙で、よかったです
影武者のショーケンは、ちょっと空回りしてる感があって(役がそんな役だからしようがないのかも)、あまり入り込めませんでした
また、よろしくお願いします