2024年に観た映画(38) 「ぼくが生きてる、ふたつの世界」
「そこのみにて光輝く」以来となる呉美保監督作品。
コーダとして育つ五十嵐大(吉沢亮)の成長を具に描いた本作。
耳が聴こえない両親が子供を育てる大変さと、耳が聴こえない両親を持つ子供の大変さの双方を描きながら、大の自我の芽生えと共に徐々に大の目線で物語が進んでゆきます。
大が成長と共に直面する“他所の家”との違い。何の悪気もないクラスメイトの心ない一言。
小学生の時、クラスメイトの父親の死がニュースで報道された事があって、他のクラスの男子が大勢やってきて「お前の父さん、死んだと?(※博多弁)」と本人に訊いていた光景を思い出した。家に帰ってその事を母親に話して諫められるまで、私自身もその罪深さに気付けませんでした。
原作者でもある五十嵐大氏のリアルな半生だからこそ、エピソードの一つ一つに説得力がある。
聴こえる世界と聴こえない世界を行き来した大の半生の土台として描かれるのは、どこの家庭にも共通する誕生の喜びから子育ての苦労、成長と共に生じる親子の摩擦と反抗期、そして親元を離れて初めてわかる親の有難みという、普遍的な親子関係。
そのラストで母親が大に掛ける言葉と、大が思い起こす母との思い出に、こちらも心を揺さぶられ涙腺崩壊します。大君、いい子に育ったね。
淡々と実直にこの家族の28年間を描くスタイルに、呉監督はやっぱり優等生タイプなのだと「そこのみにて~」を観た時と同じ印象を持ちました。
そして今回もまた俳優陣の演技が心を打つ。母親役の忍足亜希子さんが素晴らしい。大役の吉沢亮君にはフジの医療ドラマで大竹しのぶさんと親子役を演じた際にも泣かされたのですが、今回もやられました。
親不孝だったあなた、遠くの母親に思いを馳せたいあなた、そんなあなたに特におススメします。
それにしても本作、たまたま劇場の上映作品ラインナップを眺めていて目に留まりましたが、宣伝が足りなさ過ぎでは?
もっと認知度が上がることを切に願います。
№38
日付:2024/9/21
タイトル:ぼくが生きてる、ふたつの世界
監督:呉美保
劇場名:小田原コロナシネマワールド SCREEN5
パンフレット:あり(¥1,200)
評価:6
<CONTENTS>
・イントロダクション
・物語
・吉沢亮インタビュー
・忍足亜希子インタビュー
・キャスト・プロフィール
・「恥しい母」から「普通の母」へ 川本三郎(評論家)
・呉監督インタビュー
※エンドロールで流れる曲の歌詞が、母親が大に宛てた手紙の文章と後で知りまた涙
・港岳彦(脚本)インタビュー
・スタッフ・プロフィール
・座談会 五十嵐大×稲川悟史(コーダ監修)×白浜哲(スチール)×澤井美佳(手話通訳)
・レビュー 金原由佳(映画ジャーナリスト)
・テーマソング
・プロダクション・ノート
・バリアフリー上映について
・完成台本
・クレジット