中村敦夫の出演映画 その4
中村敦夫編の最終回である。
打ち切りとなった「真夜中の警視」に代わる番組を急遽用意する必要があったが、そこで中村の出番となったのである。
製作は既に進んでおり、再び市川崑とのコンビによる「追跡」というドラマであった。つまり、一月半放送開始が早まった形になったのである。時代劇・現代劇の違いはあれど、「木枯し紋次郎」のコンビによるドラマということで注目を浴びたのだが、第1回の視聴率は6%しかなかったという。その後数回放送しても上昇する気配はなかった。そこで、プロデューサー会議の結果、監督経験のない舞台系の演出家たちを起用してみようというものだった。その中の一人が唐十郎だったのである。
唐が監督したのは16話として放送予定だった「汚れた天使」であった。しかし16話として放送されたのは「天使の罠」というエピソードであった。これは関西テレビが独断で行ったものであった。
試写を見た関西テレビの重役が内容に問題ありと判断し、他の話に差し替えようと決断。それを知った唐は激怒し「汚れた天使」を放送しなければ関西テレビと絶縁すると宣言し、中村や他の俳優たちもそれに呼応したのだった。しかし、関西テレビは差し替えを強行。これにより出演者、スタッフが以降の出演制作をボイコットしたため、16話をもって終了となったのである。つまり、二作連続でトラブルによる打ち切りとなったわけである。
73年後半はは日テレの開局20周年記念番組であった「水滸伝」に主役の林冲を演じている。続けて74年は「おしどり右京捕物車」で主役の神谷右京を演じた。個人的には、どちらもリアルタイムで視聴していた。
ドラマで忙しかったせいか、この時期の映画出演はない。
75年になって、中村が代表だった番衆プロに李學仁という在日韓国人青年がシナリオを持参して現れたという。タイトルは「異邦人の河」。シナリオ自体は幼稚なものだったというが、そのテーマには感じるものがあった。現在もそうかもしれないが、当時は朝鮮半島や在日外国人の問題に触れることはタブーという風潮があったのである。
しかし、中村は本作のプロデュースを引き受けることにしたのである。不可能と思える難題を目の前にすると、やって見たくなってしまう気質のためだと本人は語っている。制作費の問題があるので、まず中村はノーギャラで出演してくれる俳優を探した。その結果、米倉斉加年、河原崎長一郎、菅貫太郎、常田富士男、柳生博、小松方正、馬渕晴子、宇都宮雅代などが承諾してくれたという。中村自身もジャーナリスト役で、藤田敏八も殺し屋役で出演した。主役は朴雲煥と言ってもわからないと思うがジョニー大倉が韓国名で出演したものである。当時は「キャロル」が解散した直後であった。ヒロイン役は新人の大関優子で、ミス「水滸伝」コンテストで二位入選し、審査員をしていた中村が番衆プロに引き入れていたのである。彼女は後に佳那晃子と名を変えて活躍することになる。スタッフは日本人、在日韓国人、朝鮮人が入り乱れかなり険悪な雰囲気だったというが、何とか完成にこぎ着けという。中村は製作者としても名を連ねている。
テレビに目を向けると75年は「剣と風と子守唄」にレギュラー出演し、三船敏郎と初共演。また、「紋次郎」時代のライバル番組だった必殺シリーズ6作目「必殺仕置屋稼業」に紋次郎を思わせる渡世人姿の殺し屋としてゲスト出演。ちなみにこの回の脚本を担当した中村勝行は中村敦夫の実弟である。
76年はその流れからか、続く7作目「必殺仕業人」にはレギュラー出演となった。掛け持ちで「青春の門 筑豊編」にも出演していた。
これらが終了した頃、社長を務めていた番衆プロを抜け、独立している。原田芳雄は相変わらず気に入ったものしか出演せず、桃井かおりは遅刻の常習犯で撮影をすっぽかしたりする。担当マネージャーがノイローゼ気味になったので、桃井には辞めてもらったという。松田優作が入りたいと言ってきたこともあったが、自分の子分も連れてくるという。若いのに兄貴分を気取っているのが気に食わず断ったという。俳優を引き連れて独立を画策するマネージャーも現れ、中村は次第に馬鹿らしくなってきて先手を打って辞めたのだという。その後、番衆プロは消滅している。
77年の映画出演に「姿三四郎」がある。5度目くらいの映画化なのだが、監督は岡本喜八で、三四郎役は三浦友和であった。中村の役は檜垣源之助で、弟の鉄心は矢吹二朗(千葉治郎)、源三郎は宮内洋という特撮でお馴染みの二人がキャスティングされている。他に若山富三郎、秋吉久美子、岸田今日子、岸田森、芦田伸介、丹波哲郎、森繫久彌、仲代達矢という豪華メンバーではあったが興行的には振るわなかった。中村自身の感想も欠点はないが、大して面白くもないというものであった。
この後、野口五郎主演の「季節風」や桜田淳子主演の「愛の嵐の中で」といったアイドル映画への出演がこの時期は続いている。