加藤剛の出演映画 その3
引き続き、加藤剛である。

70年、あの「大岡越前」がスタートする。99年の第15部まで加藤剛が大岡越前守忠相を演じ続けることになり、すっかり大岡越前=加藤剛のイメージが定着した。イメージ的にはずっと「水戸黄門」と交替で放送していたように感じていたが第4部が74~75年、第5部は78年、第6部が82年というにように放送されていない年も結構あるのだ。ちなみに、5部と6部の間は「水戸黄門」と「江戸を斬る」が交替で放送されていた。同シリーズを1部から15部までまで通して出演したのは加藤剛の他、竹脇無我(榊原伊織、出演していない部もある)、山口崇(徳川吉宗)、高橋元太郎(すっとびの辰三)がいる。

映画に戻ると70年は日活「戦争と人間 第一部 運命の序曲」に出演。三部作であり、合わせると九時間半に及ぶ超大作である。この第一部では昭和3年の3・15事件から昭和7年の上海事変までが描かれている。出演者クレジットがアイウエオ順なので、それを見ただけでは誰が主役なのかはわからない。トップにくるのが青木富夫だったりするのだ(大道芸人の役)。日活の大部屋俳優だが、子役時代は「突貫小僧」の名で主役だったこともある。石原裕次郎、丹波哲郎、二谷英明、松原智恵子などの名もあるが、主役ではない。伍代一族(滝沢修、芦田伸介、高橋悦史、浅丘ルリ子、中村勘九郎、佐藤万里)が話の中心で、高橋英樹、三國連太郎、高橋幸治辺りがメインとなるようだ。加藤剛は服部という医師の役である。中村勘九郎(後の勘三郎)は当時15歳で子役としての出演。

「戦争と人間 第2部 愛と悲しみの山河」は翌71年の公開。本作は昭和10年2月から2・26事件を経て昭和12年の日中戦争開戦までを描いている。伍代一族は勘九郎から北大路欣也に子役の佐藤万里が吉永小百合にそれぞれ交代となった。主に高橋英樹と浅丘ルリ子、北大路欣也と佐久間良子、山本圭と吉永小百合という三組の男女が話の中心となろようだ。栗原小巻、三國連太郎、江原真二郎、山本学、地井武男、そして加藤剛などは前作から引き続き同じ役で出演。山本圭や和泉雅子、佐久間良子は第2部からの登場である。
今回の出演者クレジットのトップは岩崎信忠、次が井川比佐志で、一瞬何の順かわからないのだが、「い」の次が「は」で始まる人なので、イロハ順であることがわかった。男優キャストの後に女優キャストがくるのだが、佐久間良子のみ特別で(東映)付で最後にクレジットされている。なお、本作公開の2か月後に日活は一般映画製作を停止し、ロマンポルノ中心に転向することになる。
第3部の完結編は73年に公開されるが、加藤は出演してない。

話が前後するが、70年はもう一作、松竹「影の車」で主演となっている。松本清張原作のサスペンスだが、実は「影の車」というのは短編集のタイトルであり、本作はその中の一編である「潜在光景」が原作となっている。共演は岩下志麻、小川真由美、滝田裕介、近藤洋介、芦田伸介など。子役の岡本久人は翌年のドラマ版にも同じ役で出演している。

72年は「忍ぶ川」。原作は三浦哲郎の小説で、発表された60年には東宝が映画化権を獲得していた。日活の助監督だった熊井啓が映画化しようと脚本を書きあげていた。熊井は当初、吉永小百合を予定していたが、劇中のシーン(恐らくヌードシ-ン)を巡って吉永の親族と揉め、彼女の出演は実現せず、映画化自体も実現に12年待つことになる。当初に映画化権を持った東宝と俳優座で製作することになり、ヒロインには俳優座の栗原小巻が選ばれた。ちなみに、吉永小百合と同い年で、誕生日が1日違いである。その相手役が加藤剛であり、役名が哲郎となっている。原作では「私」となっているが、三浦哲郎の私小説と言われているので「哲郎」としたのだろう。共演は山口果林、永田靖、井川比佐志、岩崎加根子、滝田裕介、鹿野浩四郎など。

「日本侠花伝」は東映の任侠映画のようなタイトルだが、東宝作品である。主演は真木洋子、渡哲也で、あらすじを見た限りでは(未見)、任侠というよりラブストーリーという感じか。真木洋子の相手が村井国夫、曾我廼家明蝶、そして渡へと変わって行く。真木は渡と共演できると聞いて出演を承諾したという。共演は北大路欣也、安部徹、藤原釜足、園佳也子、富田仲次郎、任田順好など。加藤剛は賀川という役だが、あらすじにも名が出てこないので、顔見せ的な出演だろうか。

74年「砂の器」は、加藤剛が出演している映画としては最も有名かもしれない。原作は松本清張で結構な長編。主演扱いは刑事役の丹波哲郎、森田健作で、人気作曲家の加藤剛が犯人だ。という基本情報は知っていたが、その他は詳しくは知らなかった。被害者となるのが緒形拳で、元警察官で評判も頗る良い人物。そんな彼が何故殺されたかと言えば、自分の過去を知っているからということになろうか。加藤剛の父親役が加藤嘉でハンセン病に犯されているという設定。その為、剛の少年期に彼を連れ各地を旅をしていたのだが、原作ではこの一行で書かれた部分を脚本の橋本忍が大きくしたらしい。橋本に加え、山田洋次が共同脚本として参加しているが、山田は「これが映画になるとは思えません」と当初は言っていたようだ。その反応は各社も同じで集客が見込めないと松竹、東宝、東映、大映すべてに断られたらしい。結局は橋本が橋本プロダクションを設立し、監督は野村芳太郎が務めるため、所属の松竹との共同制作に落ち着いた。脚本を見た黒澤明はこれを酷評しアドバイスを送ったが、橋本は無視。フタを開けてみれば、大ヒットとなったのであった。他の出演者は佐分利信、島田陽子、山口果林、笠智衆、渥美清などである。