法廷映画の傑作に迫る その③
アラバマ物語(1962年・米国、モノクロ、129分)監督:ロバート・マリガン
「十二人の怒れる男」、「情婦」に続き、今回は「アラバマ物語」のご紹介です。
この映画は、人種的偏見の強いアメリカ南部の田舎町を舞台に、白人娘へのレイプ罪に問われた黒人青年を弁護する正義派弁護士の姿を描いています。
同時に、弁護士の幼い兄妹と、隣家に住む知的障害をもつ青年との関わりも重要なポイントとなっています。果たして、どういった結末が待ち受けているのでしょう。
1932年、アラバマ州メイコム。黒人差別がまだ残るこの田舎町に、男やもめの弁護士アティカス(グレゴリー・ペック)は息子ジェム(フィリップ・アルフォード)、娘のスカウト(メアリー・バダム)と住んでいる。ある日、農夫ボブ(ジェームズ・アンダーソン)が、娘のメイエラ(コリン・ウィルコックス)が使用人の黒人トム(ブロック・ピータース)に強姦されたと警察に訴えた。判事は罪を否認するトムの弁護人に、アティカスを指名した。ところが町の住人たちは ‘黒人を弁護したらただでは済まないぞ!’ とアティカスに警告した。不正と偏見を嫌い、何よりも正義を重んじるアティカスは気にもとめなかった。一方、スカウトら子供たちは、近所に住むブー(ロバート・デュヴァル)のことが気になって仕方なかった。誰もブーの姿を見たことがないのに、ブーは父親から虐待されてベッドに鎖で繋がれているとか、動物を食べる恐い男だとか、あらぬ噂が先行していたからだ。怖いもの見たさに、スカウトとジェムはブーの家に忍び込んだが、ブーに見つかり逃げ帰った。
月日が流れ、トムの裁判の日がやってきた。陪審員は全員白人で、被告人にとっては極めて不利な状況下、アティカスはどう論戦を挑んでいくのか...。
一般的に、物語の中盤に据えられた法廷劇では、ここぞとばかり黒人差別への問題意識を込めたアジテーション(扇動)を展開すると思うのですが、ロバート・マリガン監督は決して声を張り上げることなく、冷静に描いています。つまり、差別を大人の世界の不条理の一つとして提示するだけで、あくまでも視点は子供の側(特にスカウト)に置いているのです。他人を思いやる気持ちを理性で伝えようとする弁護士の父親の姿に、6歳のスカウトは彼女なりに得たものがあったのでしょう。
(演じたメアリー・バダムは出演時10歳)
もっとも裁判の傍聴席は1階が白人専用で、黒人は2階の立ち見というのはいかにも不条理です。
グレゴリー・ペックは、頼もしい父親であると同時に、黒人差別と闘う高潔な弁護士を好演、アカデミー賞で主演男優賞を受賞しています。過去に4度のノミネート歴がありながら、一度も受賞に結びつかなかった彼がやっと手にしたオスカーでした。若い頃は大根役者と揶揄された彼も、この頃は47歳と円熟期で、年相応の演技力と渋さが備わっていました。
本作の魅力の一つに、スカウトを演じたメアリー・バダムの存在があります。
「おしゃま」という表現がピッタリですが、とても愛くるしく可愛いです。
彼女の視点でストーリーが進行していくさまが心地よく、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされるほどの好演ぶりで、10歳でのノミネートはテイタム・オニールが「ペーパー・ムーン」(73年)で同賞を受賞するまでの年少記録でした。
メアリー・バダムは「雨のニューオリンズ」(66年)にも出演していますが、その後は数本の作品に出演しただけで早々と引退しています。
現在は70歳だと思います。ジョン・バダム監督の妹でもあります。
リアリティの観点から出演俳優は無名とまではいかずとも、地味な面々で固めています。
その中にあってロバート・デュヴァルが31歳という遅咲きのデビュー、出演シーンは短いながらも強烈な個性が光っていました。
大好きな映画というのは山ほどありますが、新しい世界観を提示してくれる映画はそれほど多くありません。若輩の頃に初めて本作を観たときの衝撃、まさに自分にとっての映画の歴史を形づくった1本です。
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投稿を表示こんにちは!
この作品は見たつもりでいましたが、どうも未見みたいです。
洋画さんの映画の歴史を形づくった1本ということならば
絶対見なければ!ということでリストインしました(^^♪
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