傍系クレージー映画
東宝クレージー映画は62~71年に製作されているが、その時代にメンバーの主演で東宝で製作されながらクレージー映画に含まれない作品が数本存在する。「空想天国」(68年)「奇々怪々俺は誰だ?!」(69年)「喜劇負けてたまるか!」(70年)がそれで、いずれも谷啓が主演である。
谷啓が主演だから含まれないのではない。クレージー映画に分類されている「クレージーだよ奇想天外」(66年)などは谷啓が主演なのである。一番大きな違いは前述の三本には植木等が出演していないのである。事実上、東宝の専属だった植木がいてこそクレージー映画である、と考えられているようだ。
「空想天国」は、谷啓の芸名の由来であるダニー・ケイの映画「虹を掴む男」を下敷きにしているという。クレージーのメンバーからはハナ肇と桜井センリが刑事役で出演。ヒロインは酒井和歌子で、ライバル役が宝田明、悪役で平田昭彦、藤木悠、他に藤田まこと、藤岡琢也、京塚昌子、小松政夫などが出演している。ちなみに宝田明はクレージー映画への出演は一本もない。
監督はテレビ「青春とはなんだ」等で知られる松森健で、彼もクレージー映画には参加していなかった。平田や藤木は「青春とはなんだ」に出演しており、生徒役だった矢野間啓二、豊浦美子も本作に登場する。
「奇々怪々俺は誰だ?!」は、監督の坪島孝が助監督時代から温めていたというプロットを映画化したもの。ストーリーは文章では説明しにくい。ある日、鈴木太郎(谷)が会社に行くと、もう一人の鈴木太郎(犬塚弘)が席についており、同僚は彼を太郎だと認識していた。それは家でも同じで「じゃあ自分は誰なんだ」とTVの尋ね人コーナーに出演する。その結果、鈴木次郎であると決めつけられ精神病院に収容される。そこでは、彼を殺し屋の鈴木三郎であるという男が現れ、脱走を手引きするというような展開になっているらしい。
犬塚の他、ハナ肇が精神科の患者(野々山定夫)で登場。ちなみに野々山定夫はハナの本名。他の出演者は吉田日出子、横山道代、なべおさみ、二瓶正也、船戸順、左卜全、田崎潤、クレージー映画常連の人見明などが出演している。
「喜劇 負けてたまるか」は野坂昭如の原作で、詳細がよくわからないのだが、犬塚弘、浜美枝、砂塚秀夫、柏木由紀子、高橋紀子、奥村チヨなどが出演している。