8作目 菊次郎の夏 ツービート復活。
菊次郎の夏 平成11年(1999年)公開
母を訪ねて三千里の変形型ロードムービー作品。
前作のHANA-BIは妻とのロードムービーだったが、今作は照れ屋で破天荒なおじさん菊次郎と母親を探したい近所の子供、正男との旅。互いの母親を見かけるが・・・息子にとって「母親」は常に甘えたくなる存在。マザコンを自称する監督の「母親」への思いについて作品から読み解ける。
小泉元総理もこの作品を鑑賞したが「夏次郎の菊」と勝手にタイトルを変えてしまった逸話を残す。
この作品は北野監督が子供との距離感を表現した。主役の菊次郎は監督の父親の名前。
妻役はHANA-BIでは寡黙な妻を演じた岸本加世子。今作は監督の母北野さきさんをモチーフしたのかと思うような「下町の世話好きかぁーちゃん」
子役も独特の感覚で起用
北野監督は芸歴にはあまりこだわらない意表を突くキャスティングを行う。
この作品では子役の関口雄介氏(現在は芸能界引退)はほとんど演技の経験がない。起用については「かわいい子がオーディションに来ていたが元々可愛い子より普通の子が可愛くなる過程の方が良いのでは」とインタビューで話す。
監督の言葉どおり作品を観てると可愛く見えてくる。観ている側としては顔の表情や演技が上手くなる過程を感じ育成している感覚にもなる。まるで「親戚のような」気持ちに。
後のアウトレイジビヨンドでは韓国の実業家で俳優未経験者の金田時男氏を起用するも豪華俳優陣に負けない存在感を放つ。
「天使」がキーポイントで登場する理由。
今作品では天使が現れる。
天使については、前作のキッズリターンの撮影の際にあるおばさんから天使のグッツを渡されて
「なんか怪しいな~」と思ったものの、事務所に多数の「天使」関連の物があり、何かあるのか?
と意識するようになり今作で登場させた。
菊次郎の夏 観て欲しい5つのポイント”!
- 浅草芸人の監督が撮る「浅草」の裏路地、生活感、雰囲気。
- 変態男(麿赤児)とのシーン。菊次郎(たけし)が演技ではない素で抵抗するシーン
- 菊次郎(たけし)の老人ホームへ入居している母親を訪ねるシーンでの悲しげな菊次郎の表情
- 監督ばんざいで登場する井出博士(井出らっきょ)の宇宙人の原形と伏線のはじまり
- バス停のシーンで相方のビートきよしが登場。漫才のような掛け合い
ツービートの復活
テレビ番組やラジオ番組では度々、共演していたもう1人のビートこと相方のビートきよし。
映画ではこの作品で初共演をした。そのシーンを改めて観ると、照れ屋で人見知りな監督の素の部分を唯一出せる相手はビートきよしさん!と再認識をする。ツービートが漫才をしている映像はいわゆる違法動画以外ではほぼ皆無なため、共演映像は貴重。
ツービートの結成秘話を垣間見れる作品としては劇団ひとり監督の「浅草キッド」 がある。そのビートきよし役を演じたナイツの土屋伸之の演技はきよし氏の朴訥(ぼくとつ)とした人柄を見事に投影していた。※Namiさんのコラムにて「浅草キッド」に触れらえております。コラムはこちら
また北野監督の弟子、浅草キッドによる「浅草キッド」もある。
※ツービート(ビートたけし・ビートきよし)・・・昭和47年(1972年)に結成。標語ネタの代表格「赤信号みんなで渡れば怖くない」をはじめ、痛烈な客いじり、山形県の悪口、国籍ネタ、やくざ、死刑囚いじり、高齢者いじめなど、ほぼ放送禁止のネタを披露する漫才コンビ。80年代の漫才ブームでは関東勢のセントルイスが離脱後、関西ばかりの漫才師の中、浅草の匂いのある毒舌で「事件や世の中にある事に対するアンチテーゼ」「東京漫才」で孤軍奮闘する。
あの踊るシリーズに影響を与えた?
菊次郎の夏は踊る大捜査線シリーズの「交渉人 真下正義」のスピンオフ作品である「逃亡者 木島丈一郎」(2005)に多大の影響を与えていると思う。類似点として、木島丈一郎(寺島進)と菊次郎のキャラクター雰囲気が共に東京の下町親父のキャラ「馬鹿野郎~てめーこのやろ~のがらっぱち」、子供に対する不器用な優しさ。砂浜のシーンではほぼ菊次郎の夏と被る。
関東お笑い組長は石橋貴明、映画人・俳優の北野武を継いでいくのが寺島進、コメディアンや創作活動のビートたけしを継いでいくのは劇団ひとり、芸人としての粋な部分は玉袋筋太郎がそれぞれ継承していくと勝手に思っている。
音楽が夏のワクワクするような音色。映像との融合感は秀逸。
Joe Hisaishi - Summerより