西郷輝彦の出演映画 その3
引き続き、西郷輝彦である。69年の作品からだ。

まずは、松竹「霧のバラード」。これは前項の「釧路の夜」と同じ栗塚旭主演のアクションものである。この「霧のバラード」も美川憲一のシングル曲のタイトルであり本人も出演しているので、所属のクラウンレコードが制作に関わっている。その関係で西郷と笹みどりも本人役で出演しているのだ。笹みどりは美川と同期の演歌歌手。「下町育ち」などテレビ主題歌を多く歌っており、当時は「テレビ主題歌の女王」と呼ばれていた。76年にクモ膜下出血で倒れるが、83年にカムバックを遂げている。スナックのママ役の朝丘雪路も当時はクラウンの所属だった。
本作は主人公の栗塚が朝丘雪路に頼まれ、吉田輝雄と佐藤友美の密航を助ける。栗塚と佐藤は過去に関係があった。彼等の密航計画は土方弘率いるやくざたちに知れ、死闘が繰り広げられるというような話だ。西郷は本人役と言っても、栗塚たちの手助けをするようだ。美川の役は小松方正演じる医師の息子。他に砂塚秀夫や堀田真三も出演している。堀田は東映のニューフェイスであり、当時も東映所属のはずなので、おそらく初の松竹出演ではないだろうか。この年は大映作品にも顔を出している。

69年のもう一本は松竹「海はふりむかない」。こちらは西郷の主演映画だ。悲恋映画であり歌謡映画でもある。松竹の薄幸のヒロインと言えば尾崎奈々、他に中山仁、森次浩司(康嗣)、夏圭子、有川由紀、勝部演之など。勝部は西郷の兄役だが、エリート意識が強く冷淡であるという勝部にピッタリの役。西郷はもちろん同タイトルの主題歌、由美かおる、美川憲一、高田恭子も顔を出し、それぞれの曲が挿入歌として流れる。西郷と尾崎のデュエットもある。高田はこの年に「みんな夢の中」でデビューした新人だが、レコード大賞の新人賞を受賞している。

70年に突入する。この年の出演映画は1本のみで、松竹「東京⇔パリ 青春の条件」である。本作は橋幸夫のデビュー10周年記念映画であり、舟木一夫、西郷輝彦の御三家が揃って出演している唯一の映画なのである。加えて三田明、黛ジュン、森田健作、ピーターなども顔を出している。御三家に三田明を加えて「四天王」という言い方をすることもある。この中では橋が一番年長でデビューも早く、三田が一番年下だが、どうやら西郷よりデビューは早かったようである。
本作は橋の10周年記念なので、当然橋が主役だ。役名も西郷は「西条」で、舟木は「船田」だが、橋は「風間史郎」といういかにも主役っぽい名前で、橋がつかない。ちなみに橋幸夫はほぼ本名(幸男)。他の出演者だが、小川ひろみ、山形勲、加藤嘉、左卜全、藤村有弘、曾我町子などで、三田明、ピーター、アン真理子は本人の役で登場。アン真理子は「悲しみは駈け足でやってくる」が有名だろうか。元々は「ユキとヒデ」というヂュエットだった。ヒデとは出門英のことであり、解散後にロザンナと組み「ヒデとロザンナ」となり、ユキは藤ユキからアン真理子に改名したのである。
73年にスタートしたドラマが「どてらい男(やつ)」である。本作は人気を呼び、約3年半全180回まで続くことになる。これ以降は歌手の副業というよりは、俳優イメージの方が強くなっていった印象がある。

この間に約4年ぶりの映画出演があった。74年松竹の「狼よ落日を斬れ 風雲篇、激情篇、怒涛篇」である。
何とか篇というのが3つ付いているが、昔の様に3回に分けて上映したわけではなく、160分一挙上映である。テレビの1時間ドラマ3回分といったところだ。原作は池波正太郎で、四人の幕末志士を中心に描かれた時代劇だ。高橋英樹(杉虎之助)、緒形拳(中村半次郎)、近藤正臣(伊庭八郎)、西郷輝彦(沖田総司)である。杉は架空の人物だが、後の三人は実在した人物。西郷の演じた沖田は説明不要だろうが、中村半次郎は後に桐野利秋を名乗り、明治の新政府では陸軍少将を務めている。伊庭八郎は隻腕の剣客として知られる人物だ。他の出演者は辰巳鉚太郎(西郷隆盛)、和崎俊哉(近藤勇)のような実在人物もいれば、松坂慶子、田村高廣、佐野浅夫などは創作の人物を演じている。監督は三隈研次だが、翌75年にガンで亡くなった為、本作が映画での遺作となった。54歳の若さであった。

75年に入り、人気放送中だった「どてらい男」が東宝で映画化された。西郷演じる猛造が16歳で丁稚入りした初期のエピソードを描いているようだ。ちなみに西郷も当時28歳で16歳役はどうかと思うが、余程子供時代でなければ、過去エピソードは本人が演じるのが普通ではあった。本作は西郷と幸夫役の田村亮以外はテレビシリーズとは異なる役者が演じている。正直、映画もドラマもほとんど見ていないので資料を見比べての突合せだが、前者がテレビ版、後者が映画版である。前戸弥生役:由美かおる→小柳ルミ子、竹田一夫役:高田次郎→津川雅彦、前戸文治役:沢本忠雄→曾我廼家明蝶、岡田弥太郎役:大村崑→内藤武敏、糸路役:扇千景→浜木綿子、芋生役:岸部シロー→田中邦衛、大石善兵衛役:笑福亭松鶴→伴淳三郎といった具合である。監督はクレージー映画などで知られる古澤憲吾である。

また、この75年からは「江戸を斬る」シリーズがスタート。西郷初のテレビ時代劇主演で南町奉行遠山金四郎を演じた。「遠山の金さん」と言えば桜吹雪の刺青だが、本作では差別化の為か、めったに刺青を見せない金さんである。
「どてらい男」が終了した翌78年には東映の大型時代劇「柳生一族の陰謀」「赤穂城断絶」に出演。前者は駿河大納言忠長、後者は浅野内匠頭とそれぞれ著名な人物を演じている。、
ミュートしたユーザーの投稿です。
投稿を表示「どてらい男」、関西テレビで最大のヒット番組!っていうか関西局で成功したドラマは花登筺作品が多いのですが。話は長いけど、ほとんどスジが進まないことで知られる先生でした。
仕事を断らない主義でオーバーフローだったと伝え聞きます。
東宝の映画化があったのは記憶してます。キャスティングを変更してたのですね。
東宝は「サインはV」、「飛び出せ青春」など青春ドラマの劇場化などやってました。
テレビの台本をダイジェストにしたもので、あんまり面白いものではなかったですね。
猛やんのイビリ役が曾我廼家明蝶、津川雅彦とテレビよりパワーアップしたとは、ちょっと見たくなりました。
作品的には松竹っぽいんですが、関テレなんで東宝でと、資本関係なんでしょうね~
貴重な紹介、ありがとうございました。