私のおススメ“音楽映画” PART Ⅰ
おススメしたい「音楽映画」?・・・改めて観賞履歴を振り返ると、(その定義とチョイスが)なかなか難しいお題だと感じました。
そこでおススメしたい「音楽映画」を以下の3つのカテゴリに分類しました。
(1) 音楽/ミュージシャンが主役の作品
(2) 音楽が印象的な作品
(3) 音楽と映画が融合した作品
先ずは「音楽/ミュージシャンが主役の作品」を振り返ってみました。私が推す作品は、いずれも伝記物ではなくドキュメンタリー作品が揃いました。
①フラッシュバックメモリーズ 3D(2013年)
ディジュリドゥとはオーストラリア先住民が作った木製の金管楽器。この作品は日本人ディジュリドゥ奏者GOMAと盟友The Jungle Rhythm Sectionのライブ映像で貫かれています。
2009年に彼を襲った突然の交通事故と高次脳機能障害。失われた記憶と消えていく記憶。そこから始まった彼の第二の人生。
2011年暮れに撮影された復帰後のGOMAと仲間達のスタジオ・ライブ映像に、事故前のノーマルだった日常の記録≠記憶がオーバーラップ&フラッシュバックされます。ライブ映像、過去の映像、そしてテロップ。この三重写しに3Dが大活躍。もはや3D映画というよりも3Dアートといった方が適切ではなかろうかと思うくらいに見事な調和。ディジュリドゥという長尺の楽器もこの映像表現と見事に合致。
彼と、彼の奥さんの日記が心を打つ。生きていく上で、人と繋がる上で、記憶という脳内記録が持つ重み。それを失った男の葛藤と前進。彼にとって日記に残した言葉は決して過去の思い出には成り得ない。過去の自分が残してくれた未来の自分へのエールに、その言葉に励まされ、鼓舞されて今日も前を向く。事故の代償に神様が彼に与えてくれた絵の才能にも驚かされました。
ヒューマン・ドキュメンタリー映画、音楽映画、そして3D映像表現の3つの側面も見事に調和。
米国で上映されればアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞間違いなしだと思いました。
GOMAとThe Jungle Rhythm Sectionが叩き出すエッジの効いたグル―ヴ・サウンドは、出来れば優れた音響設備で観賞頂きたいところです。
②Michael Jackson's THIS IS IT(2010年)
本来ならロンドン公演の模様を収めたDVDの"映像特典"的貴重映像でしかなかったフィルムからは、その絢爛豪華なライブパフォーマンスがいかに凄まじいものであったか、その片鱗を窺い知る事が出来ました。
そして所詮はリハーサルでしかない中でマイケルが見せる、これまた凄味と円熟味溢れるダンス。超が付く一流のダンサー達が束になっても敵いっこない本家の切れ味と湧き上がるオーラ。ハイトーンのヴォイスも、まるでジュエルのように光り輝きながら胸に飛び込んで来る。
コンサート・リハーサルの記録映像、です。
ただしそこには、「燃えよドラゴン」「エデンの東」といったスターのカリスマ性だけで未来永劫輝き続けるであろう作品と同じ成功要因=魅力が確実に存在しました。無邪気でAgelessでColorlessなMJの魅力が淡々と伝わってきます。
ロンドン公演の舞台監督でもあったケニー・オルテガは、幻となった公演の見どころを上手くフィルムとして再構築してくれている。この公演が予定通り行われていれば、まさに伝説のステージになると共に、その映像はマイケル復活の起爆剤となったのではないかと想像してしまいます。
上映終了2日前に本作を観賞したその日、家に帰るなり日本公演(1987年)の模様を録画したビデオを探し出して観てみました。そこには、当時後楽園球場で観たにもかかわらずまるで記憶に残っていないライブの様子が、当時の印象のまま映し出されていました。当時のマイケルはまさに絶頂期。しかしながらそれからの20年にわたり更なる進化を続けていたMJの、まさに最高傑作となる筈だった今回のロンドン公演。
私は"Man In The Mirror"が流れ出したあたりから映像が涙で滲んでしまいました。
本作品、マイケルが世界中のファンに残してくれた最後の素敵な贈り物であるのと同時に、マイケルを愛したスタッフ、クルーによる彼へのレクイエムに違いありません。
「一度でもマイケルを愛した事のある未見の音楽ファンの皆さん、上映終了まであと1日。是非大画面で!劇場へ急げ!!」と当時叫んだ私でしたw。
③モリコーネ 映画が恋した音楽家(2023年)
映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネの人生の歩みを、本人の口述と関係者へのインタビューを中心に振り返った157分。
次々と明らかにされる楽曲秘話は、知っている作品でも知らない作品でも興味の尽きない話ばかり。彼が最初に脚光を浴びた編曲の仕事からして、「彼は編曲を“発明”した」という関係者の言葉通り、その独創的なアレンジによって次々とヒット曲が生まれるプロセスに、彼の才能の片鱗が早くも窺われます。
彼自身の音楽的ルーツ、作曲における手法、映画音楽への思いの変遷、そして数々の名曲秘話。ある意味監督以上に作品の本質を見抜いていたのではないかと思わせる彼の監督たちへのアドバイスと、そのシーンに見事に適合する楽曲、その結果誕生した名シーンが次々紹介されていく。生涯で1本だけ、彼が担当出来なかった事を後悔している作品の話なども。ジュゼッペ・トルナトーレ監督は自身の作品は控え目にモリコーネの作曲家人生を網羅していて、本当に見応えのあるドキュメンタリーに仕上げてくれました。まさに映画版「私の履歴書」と言える本作と、この偉大な作曲家の軌跡に何度も拍手を送りたくなりました。
以上、「音楽/ミュージシャンが主役の作品」でした。
PART Ⅱに続く・・・