2025年に観た映画(11) 「ANORA アノーラ」

アカデミー賞にノミネートされた作品の中で唯一観賞していたのがこちらの作品。やっぱ事前に観てるとTV中継も一際楽しめますね。私は本作観賞後にオスカーはないなと感じた人なので、アノーラ旋風が巻き起こった今年の模様に只々ビックリ。っていうか既に昨年のカンヌでもパルムドール獲ってたんだ(←情報に疎過ぎる)。
ストリップ・クラブで生計を立てるアニーの前に現れた、ロシアの大富豪の御曹司。あのシンデレラ・ストーリーさながらに専属契約を結ぶくだりは、明らかに監督の意図を感じる。
一見同じようなシチュエーションで始まる本作は、その後の展開を大きく異にする。その様子を目の当たりにしながら、一体私は何を見せられているのだろうと思ってしまいました。
うちの娘と同じ年頃のアニーが、ただでさえいかがわしい職業の職務規定を更に逸脱した行為で客を呼び、たまたまゲットした“上客”、すねかじりのボンクラ息子と贅沢三昧。少々おいたが過ぎた息子にお灸を据えに現れる大人達を前にして為す術もない2人。
とんでもない失態を招いたお目付け役の使用人と共に町中を駆け巡る追走劇。本作の醍醐味はここからなのですが、救いようのない結末もまた透けて見えてくる。
全てにけりが付いた後、唯一彼女を気遣っていた用心棒のイゴールに、最後の最後で謝意を示すアニー。彼女流の不器用な、精一杯のその行為がこれまたなんともやるせない。
その痛々しさにオジサンが感情移入できる訳もなく、とても彼女を応援する気にはなれませんでした(これが日本なら、トー横に屯する自分の娘と同世代の若いコが無軌道に生きる姿を描いたような作品といった感じでしょうか)。
今となっては「ふてほど」でしかないかつてのシンデレラ・ストーリーへの強烈なアンチテーゼである令和版「プリティ・ウーマン」で描かれるのは、泥に塗れたプリンセス。今も昔も女性が女性を武器にせざるを得ない切なさと嘆かわしさ(※男の方)にも塗れた作品でした。
№11
日付:2025/3/2
タイトル:ANORA アノーラ | ANORA
監督・脚本:Sean Baker
劇場名:小田原コロナシネマワールド SCREEN8
パンフレット:あり(¥990)
評価:5.5



用心棒的アルメニア人、イゴールを演じているのは「コンパートメントNo.6」で酒浸りの相席客役が印象的だったユーリー・ボリソフ。今回も人間味ある“危険な男”を印象的に演じてみせた。

<CONTENTS>
・受賞歴
・イントロダクション
・ストーリー
・キャスト
・マイキー・アディソン(アニー役)インタビュー
・ショーン・ベイカー監督インタビュー
・レビュー
土地と人のつながりを描くショーン・ベイカーのブレない視点 村山章(映画ライター)
・ショーン・ベイカー監督へのキャスト・コメント
・マイキー・アディソンへのキャスト・コメント
・プロダクション・ノート
・レビュー
夢みたいな夢の終わりに、アニーが手にした本物の輝き 山崎まどか(コラムニスト)
・エッセイ
すべてのプリンセスはずっと 戸田真琴(文筆家・映画監督・元セクシー女優)
・エッセイ
リアルな「現実」なシンデレラ・ストーリーの先に思うこと 吉田恵里香(脚本家)
・レビュー
「人生最高の日」を探して ショーン・ベイカーの選曲術 高橋芳朗(音楽ジャーナリスト)
