橋幸夫の出演映画 その4
このタイミングで、橋幸夫のラストである。

67年に入るが、まずは正月映画「シンガポールの夜は更けて」。橋の85枚目シングルでもあり、主演は橋と初共演となる由美かおるだ。ちなみに当時16歳で、映画は前年に日活で初出演を飾っている。この年の橋は由美とのコンビが続くことになる。ジャンルは歌謡ロマンスとなっているが、あらすじを見る限りではサスペンス的な面もあるようだ。共演は菅原謙次、園井啓介、金子信雄、待田京介、ロミ山田、園江梨子などで、藤岡弘も「陳」という役で出演。ポスターに名前もある。菅原文太も「丁」というバーテン役だが、こちらは名前がない。
「バラ色の二人」は、橋の88枚目シングル「夜は恋する」のB面に位置する曲のタイトル。前述のとおり、こちらも橋と由美のコンビが主演で、桑野みゆき、香山美子、岡田英次、石井伊吉(毒蝮三太夫)らが共演。由美の母親役で「カルメン故郷に帰る」の小林トシ子が顔を出している。

橋の89枚目のシングルが「恋のメキシカン・ロック」だが、映画のタイトルは「恋のメキシカン・ロック 恋と夢と冒険」となっており、ポスターを見ると「恋と夢と冒険」がメインタイトル的な扱いになっている。こちらも橋と由美が主演。メキシコではなくグアム島が舞台で、由美の役はマリコ(混血娘)となっており、現代ではハーフと書かないと怒られそうである。共演は広瀬みさ、藤村有弘、亀石征一郎、園江梨子、藤ユキなどで、前に書いたが藤ユキはアン真理子のことである。

67年の続きだが、もう一作品「男なら振り向くな」がある。石原慎太郎の「人魚と野郎」が原作だという。タイトルは珍しく橋のシングルタイトルではなく、本作用の新曲もないようだ。橋と田村正和が友人でもありライバルでもあるオートレーサーで、ヒロイン役は由美かおるが三作続いていたが、本作では初共演の加賀まりこである。他に小沢昭一、左時枝、渥美清など。ポスターにも名のある石坂浩二は、一瞬だけの登場のようだ。
68年は「夜明けの二人」一本だけのようである。橋の96枚目シングルタイトルでもある。本作は「ハワイ日本人移民百年祭記念映画」と銘打たれており、オアフ島、マウイ島、ハワイ島などハワイロケも敢行されたようである。今回のヒロイン役は黛ジュンで、日系三世の役だ。共演は竹脇無我、生田悦子、山口崇、香山美子、花沢徳衛、長門裕之、小沢栄太郎、伴淳三郎などで、他にも高見山や音楽担当の中村八大なども出演している。ちなみに本作での橋の役名は中野秀夫といい英雄ではないようだ。

69年は二本あるが、まずは「恋の乙女川」。101枚目シングル「乙女川」が主題歌となっている歌謡映画である。今回のヒロインも初共演となる尾崎奈々だが、橋の義理の妹という役柄なので、二人の恋物語というわけではないようだ。共演は永井秀和、宗方勝巳、入川保則、若柳菊、田村奈巳、松村達雄、黛ジュンなどで、ピンキーとキラーズが本人たちの役で登場するようだ。
若柳菊は本名を鹿内寛子といい、フジサンケイグループの鹿内信隆の長女である。芸名は日本舞踊・若柳流の師範でもあったことからで、翌年には菊ひろ子に改名している。父母の後押しもあり、フジテレビの番組にもよく出演していたが「社長の娘が自社の番組に出演するのはあらぬ誤解を招く」という鹿内の側近である石田達郎の進言を鹿内が受け入れ、71年に彼女を引退させた。彼女は結婚離婚を経験した後の80年に奈月ひろ子としてカムバックし、舞台やドラマで活動している。

話がそれたが、69年のもう一本は「ひばり・橋の花と喧嘩」である。タイトル通り美空ひばりとの映画初共演。この二人だとひばりが格上のようで、名前もひばりが先だ。時代劇っぽいタイトルだが、山口瞳原作の現代劇である。ひばりが三役、橋が二役を演じている。主題歌は橋の104枚目シングル「荒野のまごころ」が使われている。共演は財津一郎、長門裕之、佐藤友美、西村晃、真家宏満、左時枝、石井均、渥美清などで、エノケンこと榎本健一も顔を出している。翌70年に亡くなっているので、映画としては本作が遺作となるようだ。

70年は西郷輝彦のところでも紹介した「東京⇔パリ 青春の条件」に出演。橋、西郷、舟木一夫の御三家が揃った唯一の映画である。「橋幸夫芸能生活10周年記念映画」と銘打たれているので、橋が主役である。三田明、黛ジュン、森田健作、ピーターなども共演している。主題歌は橋の106枚目シングル「東京-パリ」。舟木が橋の「霧氷」を歌ったりする場面もある。何故か本作を最後に現在まで橋の映画出演はパッタリとなくなっている。