「トリとロキタ」と、シビアな子どもたち映画の系譜
ベルギーの映画監督ダルデンヌ兄弟による「トリとロキタ」が、2023年4月現在上映されています。
アフリカから難民としてやって来た十代の少女ロキタと幼い少年トリ。
ボートで出会った2人は、難民ビザを受給するため、姉弟であることを装います。ままならない現実、2人を利用する大人たち。シビアな現実に翻弄されながら、お互いだけを支えにして、2人は懸命に生き抜いていきますが…。
未成年の難民の苦境を淡々と、ドキュメンタリータッチで描いていきます。
非常にシビアで、重い。でも、決して暗いだけの映画じゃない。
厳しい現実の中で、お互いの存在だけを頼りにして生きていく2人の姿に、心を掴まれます。
理不尽な世界を見つめる、2人のまなざしの強さ。
声高に叫ぶわけじゃない。どこまでも静かな映画なのだけど、観た後に「自分も何かしなければ!」と思わされ、思わずこんなコラムを書いてしまうような、そんなパワーを持った強い映画です。
ただ重いだけじゃなく、主人公たちが麻薬犯罪に巻き込まれ、サスペンスにもなっていくのでね。ちゃんと、ハラハラドキドキするストーリーにもなっています。
ミニシアター系の映画で、その中でも地味な作品なので、機会は限られちゃうかもしれないですが。
機会があれば、多くの人にぜひ観てほしい作品です。
……ということで、「シビアな子どもたち映画」と勝手に名付けましたが。
理不尽な世界の中に置かれた子どもたちを主人公に描く、決して甘くない、メロドラマではない映画。そんな映画をいくつか紹介したいと思います。
大人は判ってくれない(1959)
まずはここからでしょうか。フランソワ・トリュフォー監督のデビュー作、自伝的作品。
学校でも家庭でも居場所のない12歳の主人公が、家出して海へ……
大人社会の理不尽の中で、こちらをまっすぐ見つめる主人公の視線が胸に刺さります。
霧の中の風景(1988)
ギリシャの名匠アンゲロプロス監督作は難解な印象が強いけれど、これは割とわかりやすい、シンプルなロードムービーです。
ギリシャからドイツへ、父を尋ねて旅をする幼い姉と弟の、甘くない、残酷な旅。詩のような映画。
誰も知らない(2004)
是枝裕和監督。親に見捨てられ、誰にも知られず都会の片隅で、自分たちだけで暮らす子どもたち。
ダメな大人たちに翻弄され、辛い暮らしを余儀なくされる子どもたち……なのだけど、どんな境遇でも子ども同士は明るくて、楽しそうだったりもするんですよね。
だからこそ、強く心を動かされるわけですが。
フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法(2017)
きらびやかなディズニー・ワールドのすぐ近く、貧困層の人々が住み着いた古いモーテル。そこで暮らす若い母親とやんちゃな娘の、貧しいけれど、明るい暮らし。でも、やがて生活は行き詰まってきて……
子ども時代って一瞬で過ぎていくものだから、それだけである種の「切なさ」を感じさせるものです。
本作は、そんな子ども時代の魔法のような輝きを、奇跡のようなラストシーンに封じ込めています。
異端の鳥(2019)
チェコ・スロバキア・ウクライナ映画。ホロコーストの迫害を逃れた少年が、東ヨーロッパの荒野を旅しながら、残酷な大人の不条理に出会っていく悪夢のようなロードムービーです。
これはかなり独創的。シュール寄りで、残酷描写もある映画ですが、少年の目を通して世界の矛盾と欺瞞を浮き立たせる手法は共通しています。