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私の好きな映画

cine-ma
2025/01/24 10:37

2025年に観た映画(3) 「敵」

その分野では名の知れていた元大学教授の渡辺儀助、77歳(原作より2歳年上なのは、長塚京三氏の実年齢を意識したのか?)。職を辞し、妻にも先立たれ、時折受ける講演の依頼や雑誌の連載で細々と社会と交わり続ける日々。
老いと共に訪れる、肉体の衰え、伴侶の死、社会的リタイヤ、収入の減少、、、といった中での元教授の身の丈を弁えた日常のルーティンは、「PERFWECT DAYS」のそれがユートピア的であるのに対しどこか寂寥感が付きまとう。

そんな彼の日常を、徐々に侵食する「敵」の存在。このタイトルには本能的に観賞意欲を掻き立てるものがある。観客は一貫して警戒感を怠ることなく、事態の推移を見守る事となる。

若い時分にこの作品を観ていたら、おそらく否定的な感想しか持ち得なかったのではと思います。ところがこの歳になって覗き見る渡辺儀助氏の日々日常は、身につまされる事ばかり。
彼の年齢は私より一回り以上も上なのだけれど、いつその時を迎えてもおかしくない極々近い未来予想図のようでもあります。吉田監督の年齢も、本作を執筆した当時の筒井康隆氏の年齢も、今の私とほぼ変わらないのが影響しているのではと勝手に納得。

登場する3人の女性が醸し出すフェロモン(本作のキャスティング・ディレクターにアッパレをあげたい)に、その歳にして翻弄される様子は、滑稽というよりもむしろ羨望の眼差しを向けたくなる。
「初老」とは、かつては40歳の異称だったそうですが、今では還暦を迎えるあたりが該当しているそう。まさに真っ盛りな初老男子の私にとって、後期高齢者である儀助氏の日常は(妻に先立たれている点を除けば)憧れのライフスタイルに思えてきました。

徐々に妄想と現実の境界線が失われてゆく中、彼の余生を襲う敵の正体とは。
渡辺儀助の平時を描いた前半に対して、後半に訪れる有事のそれは、観終わってみればスリリングさに欠けていました。その正体にも演出にも驚きがなかった故な気がします。

 

数年前まで、普段は滅多に挨拶する事もない、お向かいの一軒家で独り暮らしをしている老婦人が、3ヶ月に1回くらいの頻度で我が家の固定電話に電話を掛けてきていました。

「誰かが勝手に家に入ってきて物を盗んでいるの」

そう、「敵」はある日突然現れる。それこそ誰も逃れる事の出来ない、老いの証明でもある。本作のラストがどこか蛇足に思えたのは、予定調和以外の何物でもない帰結だからか。
そう、「敵」はある日突然現れ、そして消え失せる。彼の命と共に。

№3
日付:2025/1/19
タイトル:敵
監督・脚本:吉田大八
劇場名:小田原コロナシネマワールド SCREEN8
パンフレット:あり(¥1,000)
評価:5.5

(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA
(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA
(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA
(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA
(c)1998 筒井康隆/新潮社 (c)2023 TEKINOMIKATA
パンフレット(¥1,000)

<CONTENTS>
・第37回東京国際映画祭3冠受賞!!
・イントロダクション
・ストーリー
・儀助の食卓
・吉田大八監督インタビュー
・レビュー 常徳拓(美術商)
・長塚京三インタビュー
・キャスト
・筒井康隆コメント
・スタッフ
・レビュー 川本三郎(評論家)
・クレジット

 

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1 件の返信 (新着順)
YOSHIA
2025/01/25 11:29

予告だけでは、わかりずらいので、本編見たいなと感じてました😅
年齢64で近い未来的な感じかな☺️