サスペンス映画の金字塔
エレベーターに閉じ込められるという不慮の出来事によって、完全犯罪の目論見が崩れる顛末を描いたサスペンスの傑作。
「死刑台のエレベーター」
(1957年・フランス、モノクロ、92分)
監督:ルイ・マル


土地開発会社の技師ジュリアン・タベルニエ(モーリス・ロネ)は、社長夫人のフロランス・カララ(ジャンヌ・モロー)と謀り、ピストル自殺に見せかけて社長を殺害する。犯行を終え、何食わぬ顔で社外に出たジュリアンは、証拠品となってしまう社長室の窓のロープを忘れたことに気づき、急いで会社に戻る。ところがビルの管理人が電源を切ってしまい、エレベーターに閉じ込められてしまう。ジュリアンは何とか脱出を試みるが無駄だった。フロランスとの約束時間がどんどん過ぎていく。彼を待つフロランスは不安にとり憑かれ、夜のパリを探し回った。さらに、ジュリアンの車が若いカップルに盗まれ、彼らがモーテルでドイツ人夫婦を射殺したことから、ジュリアンが指名手配されることになるのだが...。
弱冠25歳のルイ・マル監督のデビュー作で、ノエル・カレフのサスペンス小説を映画化したもの。
冒頭の殺害シーンに至るまでの過程と、殺害後の逃走シーン、さらに証拠となるロープを忘れて引き返すシーンなど、いきなりサスペンスに満ちた展開に引き込まれる。

エレベーターに閉じ込められるという予想外の出来事で、ジュリアンの焦燥感がひしひしと伝わってくる。演じたモーリス・ロネは出演時30歳で、冷徹さと冷静さ、そして焦りの表情を上手く演じている。彼の代表作の1本であり、他の主な出演作に「太陽がいっぱい」(59年)、「鬼火」(63年)などがある。後者は本作と同じくルイ・マル監督である。
一方のジャンヌ・モローは本作出演時29歳。
ジュリアンを探して夜の街をさまようフロランスの切ない情感を見事に演じている。
フランスを代表する名女優だけに、本作をはじめ、「突然炎のごとく」(62年)、「エヴァに匂い」(62年)、「鬼火」(63年)、「マドモアゼル」(66年)など、数多くの名作に出演している。

さらに本作にはシェリエ警部役で、リノ・ヴァンチュラが出演している。
50年代から70年代を中心に、数々のフィルム・ノワールや暗黒映画で活躍した名優だ。
他の主な出演作は省略するが、彼の存在感はどの作品でも傑出していると思う。

上述のあらすじの一部に、「若いカップル」と書いている。
花屋の売り子とチンピラのルイだが、ルイを演じているのはジョルジュ・プージュリー。
「禁じられた遊び」(52年)で、あのミシェル少年を演じた彼だ。
当時12歳だった彼も、17歳の青年に成長している。
アンリ・ドカエ(撮影監督)のモノクロ映像も素晴らしいが、映画音楽にモダン・ジャズを用いているのが実に効果的だ。
米国が誇る名ジャズ・トランペッター、マイルス・デイヴィスの即興演奏が絶妙なハーモニーを奏でている。
フロランスたちの幸福な日の写真が、事件を暴くカギとなるラストも見事だ。
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投稿を表示ルイを演じているのはジョルジュ・プージュリは、「禁じられた遊び」(52年)のミシェル少年とは、情報有難うございます。★子役だけかと思っていました。
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投稿を表示お久しぶりです。いいですねぇ。『死刑台のエレベーター』。
監督のルイ・マルが25歳のときの作品というのにも監督デビュー作というのにも吃驚ですが、この頃のフランス映画の監督は早熟の天才という感じの人が多いですね。
殺しを自殺に見せかける手口は、そんなに凝ったものではありませんが、ちょっとした忘れ物のせいで最初の目論見が崩れていく過程が、ぐいぐいと物語に惹きこまれていきます。モーリス・ロネとジャンヌ・モローの美男美女のカップルの運命に観客の興味を引きつけるうまい脚本と演出だと思います。
でも、いい物語に水を差すようですが、今どきのビルではエレベーターは自動運転だから警備員が電源を切って閉じ込められるというプロットは使えませんね。東京なんか夜でもビルに灯りがついてますし。