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私の好きな映画

LOQ
2024/04/05 17:25

原爆タブーに風穴を開けたクリストファー・ノーランにエールを

原爆の話は重く、つらい。  テーマにした本や映画もついためらってしまうし、

日本人同士でも話しづらく、外国人相手ならなおさら。

 

毎年8月だけでなく活動団体もメディアもけっこう発信してはいる。

でも「 核廃絶は世界で唯一の戦争ヒバク国日本の責務 」とか「 忘れてはならない、後世に伝えなければ 」などの紋切り型のアピールや、堂々巡りの煮詰まった議論には萎えてくる。

どうしてそんなに重く堅苦しく悲壮感ただよい、プレッシャーで気持ちを萎えさせるのでしょうか。  核廃絶を求めるのは日本の権利。 責務があるのはむしろ保有国でしょうに。

僕もずっとそうですが、いつしか避けるようになり、知らなくなり、忘れるようになり、考えなくなっている。

 

風化の危機と言われ、無力感を感じて原爆アレルギーからくる日本のタブー視は岩盤のように厚いと感じてました。

 

そうした中クリストファー・ノーランが『 オッペンハイマー 』製作のニュースにさびついていた心が刺激を受け、好奇心と期待をそそられました

 

それなのに公開未定と言われ、バーベンハイマー現象、「 広島の被害描かない 」とのキャプション記事などで、マイナス・イメージが先行

 

8か月遅れでやっと公開されたと思ったら、日本の反応があんまりで、最初は残念なだけだったが、ちょっと腹が立ってきた。

 

センシティブなテーマに抵抗感を感じるのはわかります。

でも、ただでさえ誤解を生みやすいのに、作品を理解せずネガティブに反応し、関心をさらにそらすようなリアクションはやめましょうよ。   

 

メディアは広島の人々はどう見たかと報道しましたが、先行するネガティブなイメージでナーバスになっているところに、トラウマから冷静に観られず感情的な反応が出るのは十分想定できませんか?   日本公開最初の反応がそれ?

それらがキャプション記事で国内外に拡散されましたが、ニュースを見る側も反応は予想通り。

アメリカ人も日本人が何か責めてくるんじゃないかと思っていたところに、織り込み済みの日本の反応。

話が続かず完結。 作品にも、核の問題にも、関心は閉じていってしまいます

 

公開試写会の主催者も、伝えるメディアも8か月あったのに何の準備もしてないの ?

日本が盛り下がって喜ぶのは、むしろスミソニアン博物館の原爆展示に注文を付けたアメリカの原爆を正当化する保守派でしょうに。

 

日本の反応は、あまりに内向きで情緒的、PASSIVEで、この話題をいかにひろげていくか、意欲も戦略も感じられない

 

 

この映画は言わば、核開発版『 アラビアのロレンス 』とも言うべき作品,

 

アラビアのロレンスというのはイギリスが自国のエージェントを英雄にでっち上げたプロパガンダの呼称なので、アラブやトルコにとってはイギリスの手先なので映画そのものが嫌われている。

 

でも映画『 アラビアのロレンス 』はイギリスでは疎外されアラブを理解した青年ロレンスが、本人もアラブのためと思って活動してたのにイギリスに利用されたという話。

「 アラビアのロレンスと呼ばれた男の栄光と悲劇 」ですが、これだと個人にフォーカスが当たってイギリスが見えてこない

 

オッペンハイマーもナチが先に原爆を作る危機感を抱いていたユダヤ人青年。

本人も早く戦争を終わらせようと思って原爆を作ったがアメリカに利用されたという話。

「 原爆の父と呼ばれた男の栄光と悲劇 」ですが、これも個人にフォーカスが当たってアメリカが見えてこない。  

従来のオッペンハイマーの見方がそうで、本作もそう観られやすい。

結局、アメリカの核兵器開発全体の歴史が見えない

原爆の責任を個人を中心に観た「 天動説的戦争責任観 」

 

では「 アメリカが原爆を作らせ、成功した時は原爆の父と呼び、都合が悪くなるとスパイとして排斥した話 」として観ると、アメリカにフォーカスが当たって個人もアメリカに協力した他の国やいろんな国から来たユダヤ人学者たちが見えてこない。

原爆の責任を国家を中心に観た「 地動説的戦争責任観 

国家の問題として、アメリカと日本の対立構造で観てしまう。

アメリカ批判ととられて保守派からは反米映画と反発を招きかねないし、日本の責任に転嫁されかねない。

 

どちらの歴史観も戦争の責任をアイデンティ・ポリティクスで観てしまうおそれがある。

 

『 オッペンハイマー 』は太陽が二つある恒星系的戦争責任観 」

惑星は一つの太陽を中心に円を描いて回るのではなく、二つの太陽( 国家の責任と個人の責任 )を八の字を描いて回っている。

その惑星から見える宇宙の姿は、地球から太陽を見るのとは全然違う。

 

観客はこれまで特定の価値観で歴史を観てきた観てきたので、複眼の歴史観の本作が理解できず戸惑ってしまう。

クリストファー・ノーランはまさにコペルニクス的転回の発想を私たちの歴史観に問いかけています。   

 

ふつう原爆の映画はヒットしない。  人を誘いにくいし、自分でもためらう・

『 オッペンハイマー 』は世界中で大ヒットし、クリストファー・ノーランは核問題への世界の無関心に風穴を開けてくれました

この映画を観た世界中の人と語れるチャンス

 

本作の難しさは、授業や論文での退屈になり頭が痛くなる難しさですか?

パズルを解くとき難しいけど知的好奇心がチャレンジしたくなりませんか?

この映画は語りたい、語りつくせないおもしろさと深みのある傑作です。

 

原作は昨年8月日本では絶版でした。 最近ようやく文庫本ででました。

NHKは「 ザ・プロファイラー 」と「 映像の世紀バタフライ・エフェクト 」でオッペンハイマーを取り上げましたが、もっとメディア・ミックスしましょう。

高校、大学、市民講座でティーチイン、シンポジウムしましょう。

 

風穴が大きくなるのを待つんじゃなく、続けて穴を大きくすること考えましょうよ。

 

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