今村昌平 渾身の一作『黒い雨』
黒い雨とは、核爆発の後に土砂やがれきなどを含む重油のような大粒の雨。
ヒバクシャは爆撃を免れても、死の灰と同じく放射性降下物であり、被曝(二次被爆と呼ばれた)して、時間をかけてもたらされる死の恐怖に苦悩する。
昭和25年。閑間重松(北村和夫)は同居する姪・高丸矢須子(田中好子)の縁談が破れるのに心を痛めていた。
昭和20年8月6日 重松は通勤時に起きた爆撃からは死を免れ、市内に住む妻と、外出先から戻った矢須子も無傷で、実家のある農村で暮らしていた。
だが村の仲間の多くはヒバクシャで、矢須子もあの日外出先から戻った際黒い雨に降られていて、その噂のために縁談を断られていたが・・・
脚本・監督の今村昌平はかねてから井伏鱒二作品を愛読していました。
師匠の川島雄三が生前よく口ずさんだ「花に嵐のたとえもあるさ サヨナラだけが人生だ」は漢詩「勧酒」の井伏鱒二訳であり、今村による川島の追悼本のタイトルにもなった。
本作制作時、井伏鱒二は存命であり、共同脚本の石堂淑朗は(左翼の映画作家である)浦山桐郎なら映画化はOKされなかったろう 井伏は「黒い雨」が反核運動に利用されるのはまっぴらだったからだ、と語る。
今村昌平は戦中世代として原爆をテーマに撮りたいと考えていたが、井伏鱒二のメガネにかなうかどうか、文学と映画の表現の違い、飄々とした軽さの文体の井伏と生々しく思い自身の作風の違いと格闘することになった。
映画を完成する資金の目途が立たない中でのクランクイン。
撮影は岡山県の人里離れた村で行なわれたが、
田中好子は語る。 98日の撮影期間中オフの日も帰してもらえなかった。
都会に戻ると甘い顔になってしまうから、と。
撮影が終わって新幹線に乗った時、浦島太郎状態で普通の風景が輝いて見えた。
当時セカンド助監督の三池崇史は語る。
一人で3人分5人分の仕事を言われ、怒られてばかりの過酷な現場で、「犬」でした。(苦笑)
だが撮影が終わってしばらくすると、追加撮影が招集され、シャバの空気に戻った田中好子を戸惑わせた。
映画はモノクロフィルムで撮影されたが、追加撮影はカラー撮影。
原作にない1965年(原作発表時)の「その後の矢須子」。
過去と今現在と20年の時をつなぎたい強い思い入れが今村昌平にはあって、元の脚本にも書いてあったが、迷った末に原作に忠実な結末で撮影は終えていた。
考え直しての追加撮影だったが、やはりどうしてもスムーズにつながらない。
強く悩んだ末に、断念し原作に忠実な結末で完成公開。
DVDにはこの未公開カラーシーンが収録されている。
その後の矢須子の四国巡礼と原爆が落とされたのを忘れたかのような広島。
今村昌平の情念とメッセージを強く感じます。
解説の佐藤忠男は評価し惜しむが、僕はつなげるとバランスを欠くので正しい判断だったと思います。
今村昌平と言えば重喜劇ですが、さすがにいつもの生生しさは抑え気味で
「 この映画は声高であってはならない。 低声でなければ・・・ 」と言う通り、
緊張感の中にある静かな悲劇で、生と死の中に人間の尊厳を感じます。
ちなみに『 ブラックレイン 』(リドリー・スコット監督)と同じ年の公開。
音楽は武満徹。
主演の田中好子の演技は絶賛され、作品も高く評価された。
第13回日本アカデミー賞(1990年)
作品、監督(今村昌平)脚本(石堂淑朗・今村昌平)主演女優(田中好子)助演女優(市原悦子)音楽(武満徹)撮影(川又昂)照明(岩木保夫)編集(岡安肇)で最優秀賞、美術(稲垣尚夫)録音(紅谷愃一が優秀賞 計11部門受賞
毎日映画コンクール(第44回 1989年)では日本映画大賞 主演女優賞
ブルーリボン賞(第32回 1989年) 主演女優賞
他 多数受賞
カンヌ国際映画祭(第42回 1989年) コンペティション部門上映
ちなみに今村昌平は『 楢山節考 』(1983年)と『 うなぎ 』(1997年)と2回パルム・ドールを獲得し、国際的にも知られた監督です。
また現在の日本映画大学の前身である横浜放送映画専門学院を創設し多くの後身を育てている。
だが『オッペンハイマー』の日本公開を迎えた現在、本作DVDは絶版。
復刻されることなく中古販売のみ。
僕の地元では京都府・京都市いずれの図書館でも所蔵なし。
・・・・と言うのが、今の日本のありさまです。
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投稿を表示ロキュータスさん
「今村昌平」の若い頃の作品を観た記憶があります。
「にっぽん昆虫記」、「赤い殺意」ですが、リバイバル上映だったのかどうかさえ忘却です。
「復讐するは我にあり」は、はっきりと覚えています。
今度、「楢山節考」を観てみたいと思っています。
2024.04.27
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投稿を表示映画のタイトルだけで「スーちゃん」の表情が目に浮かびます。最近こんな映画が少なくなったように感じます。LOQさんの?最後の文章が、なんとも切ないですね。
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