シリーズ　『　オッペンハイマー　』の日本公開を待ちながら　　その８

『　オッペンハイマー　』に登場するキーパーソンたち  予習篇　その１からつづく

●    　マンハッタン計画のプロデューサー

レスリー・グローブス　( １８９６ ～ １９７０ )

[ 演じるのはマット・デイモン ]

　マンハッタン計画での役割を映像制作にたとえると、オッペンハイマーはディレクター、グローブスはプロデューサーに相当するでしょうか。

大統領をはじめ政府上層部と折衝、施設・設備の建設、セキュリティから投下作戦の計画・実行に関わります

マサチューセッツ工科大学を経て陸軍士官学校卒業。

陸軍では工兵畑に進み、ペンタゴンと呼ばれることになる米国防総省庁舎の建設に関わり、１９４１年の着工にこぎつける。

しかしその完成を待たず、１９４２年８月マンハッタン計画の指揮官に転任。

当時誰が原爆製造の科学者のリーダーになるかは決まっておらず、候補者の中でオッペンハイマーを選ぶには３つの欠点が指摘された。
１． オッペンハイマーは若手であり、ノーベル賞受賞者など多くの格上の学者に命令できるのか。
２． オッペンハイマーは管理経験がなかった。　
３． 最近組合を脱退したものの、これまでの政治経歴、周囲の共産党人脈。

　しかしグローブスは物理学だけでなく冶金学・化学など幅広い学識、学者たちを集めて専念させる中央研究所を作るべきというビジョン、そして熱意と野心を感じて、オッペンハイマーを推した。　　かなりの反対があったが、対抗する候補者は出てこず、１９４２年１０月は任命される。

　オッペンハイマーの友人の科学者アーサー・ローレンツやイジトール・ラビらも意外な決定に驚いた。

　戦後１９４７年１月核の管理・開発はマンハッタン計画からアメリカ原子力委員会( AEC )に移管。

●    　戦後のオッペンハイマーの前に立ちはだかる男。

ルイス・ストローズ　(　１８９６　～　１９７４　)
＜　投稿時点でウィキペディア日本語版に記載なし　>
[ 演じるのはロバート・ダウニー・ジュニア ]

ストローズは１９４７年プリンストン高等研究所の理事で研究所所長の候補の一人だった。しかし知名度が高く、マンハッタン計画から降りたばかりのオッペンハイマーが研究所所長にきまった。

その後１９５３年～５８年　アメリカ原子力委員会( AEC )の第３代委員長に就任。
水爆開発にシフトした政府の方針に反対するオッペンハイマーと対立。
 

１９５９年、任期終了間際のアイゼンハワー大統領は大統領首席補佐官、国務長官のポストを検討するが、結局商務長官に任命する。

上院でそれを承認するか公聴会が開かれるが、本作の白黒のシーンはその時期の時間軸。

ルイス・ストローズは両親がドイツとオーストリアからの移民のユダヤ系。
奨学金を得て大学で物理学を学ぶつもりだったが、高校最終学年に腸チフスにかかり、
治療を終え遅れて卒業するころに、父親の経営する靴卸業の経営が悪化。
大学進学を断念、父の会社で身を粉にして働いた。

第一次世界大戦中、のちに大統領をなるフーバー（ 共和党　）の私設秘書となり、さらにユダヤロビーとして働くが、ポーランドの反ユダヤ主義者からユダヤ人はみんな共産主義者だとして虐殺された事件から、屈折して共産主義者、（特にユダヤ人）をひどく嫌うようになった。

投資銀行に入社して成功し、またフーバーが大統領になると再びユダヤロビーとして活動。
第二次世界大戦になると海軍の軍官僚となるが、長年共和党の反ニューディール派だったこともあって、フランクリン・ローズベルト大統領に嫌われて、少将への昇進が見送られた。

しかしローズベルト大統領が急死して大統領になったトルーマンには認められて戦後少将に昇格。　　ウォール街と海軍の両方に太いパイプを持つようになる。
そしてプリンストン高等研究所の理事となり、トルーマンによって新設アメリカ原子力委員会( AEC )の委員の一人となり、アメリカの核政策を担うようになって、オッペンハイマーと出会いまし

た・・・。